侍ジャパンはなぜこれ以上ないエンディングで世界一を果たせたのか 栗山英樹「野球の神様がシナリオを書き始めた」 (6ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 編集協力●市川光治(光スタジオ)

 そもそも、できるとかできないってことを彼は考えません。やるかやらないかで考えますから、やりたいことをやるために必要なことをやろうとするんです。しかも難しいことがうれしいから、努力が楽しくできちゃう。そうでなければ、ああいう流れで翔平を送り出せないし、それこそが僕にとっての翔平らしさなので、追いつかれることは考えないようにしようだなんて、普段はあり得ない思考になってしまうんでしょう。

 僕はアメリカで力勝負がしたかったんです。日本ならではの"スモールボール"はもちろん大事なんだけど、日本の野球も進化している、という形を示して勝負したかった。翔平だけじゃなく、ピッチャーが攻めて、バッターがホームランを打って......そんな、翔平を生み出した日本野球の土壌があるからこそ、決勝戦でアメリカとまともにぶつかって、勝てた。それは日本の野球が前に進んだ証になるはずです。

 もちろん、監督としては"WBCで勝つ"ということが一番でした。でも、野球人としての僕のなかには、選手の数だけ、裏テーマがあったんです。それぞれの選手を輝かせる裏テーマと、世界一を両立させたいという自分のなかでのロマンがありました。

 今回、それを野球の神様が認めてくれたんだな、というエンディングだったと思います。だって、あれ以上のシナリオはないでしょ? 何しろ途中から、これは野球の神様がシナリオを書き始めたんじゃないか、と思いましたからね(笑)。

おわり

著者プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだゆうた)

    1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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