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斎藤佑樹がリハビリで得た新発見「正しいフォームを求めようとするといい時に近づく」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

連載「斎藤佑樹、野球の旅〜ハンカチ王子の告白」第44回

 その1年前には開幕投手を務めた斎藤佑樹は、プロ3年目の2013年、右肩を痛めて静かなスタートを切らざるを得なかった。斎藤が痛めた関節唇とは肩甲骨の上で回る上腕骨の先端が擦れたり緩んだりしないよう、クッションの役割を果たす存在だ。投球動作の繰り返しで関節に負荷がかかると、正しい動きができなくなって関節唇が剥がれたり、ささくれたりする。その軟骨が神経に障ると、痛みを発するというわけだ。

トレーナー、コーチらとともにフォームのチェックを行なう斎藤佑樹(右からふたり目) photo by Sankei Visualトレーナー、コーチらとともにフォームのチェックを行なう斎藤佑樹(右からふたり目) photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る

【身体のことをまったく知らなかった】

 損傷した軟骨は再生することはないと聞きました。つまり、関節唇が完治することはない、ということになります。そりゃ、落ち込むし、気持ちも沈みますよね。ドラフト1位で指名してもらって、2年目には開幕投手も任せてもらって、そのシーズンはリーグ優勝したのにその力になれず、次の年は投げられない......当然、早く戻らなきゃいけないという焦りや責任感はありました。自分で自分にそういうプレッシャーをかけていたと思います。

 でも、中垣(征一郎、当時はファイターズのトレーニングコーチ)さんが戻ってきて、いろんなことを勉強しました。たとえば上腕骨が肩甲骨の関節窩のなかで正しい動きをすれば、損傷した関節唇も痛むことはない。だから上腕骨に正しい動きをさせるよう、またそうした関節の緩みが悪化しないよう、肩関節のストレッチや肩周りのインナーマッスルの強化をしよう、とか。同時に、関節唇の損傷を悪化させないような正しい動きをするためのフォームの見直しも欠かせない、とか。まずはそうしたアプローチを中垣さんと模索していくことにしました。

 キャンプが始まるまでは、炎症が収まるのをただひたすら待っていました。だから1月は下半身をメインにウエイトトレーニングを続けていましたが、その頃にはもう「これはしばらく投げられそうもないな」と感じていました。

 ところが、キャンプ初日の僕の状態を見た中垣さんは「こんなの、全然たいしたことはない」と言ってくれたんです。その言葉はものすごく支えになりました。中垣さんは「地道に感じるトレーニングが毎日毎日、続くことになると思うけど、3カ月の間、ちゃんとやれば必ず戻れるから」と言ってくれました。「3カ月」と言い切ってもらったことで、早く戻らなきゃという気持ちが吹っ切れたんです。僕は中垣さんについていこうと思いました。

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著者プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだゆうた)

    1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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