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新井貴浩監督はいかにしてカープを再建したのか 采配から読み解く「新井イズム」の正体 (3ページ目)

  • 前原淳●文 text by Maehara Jun
  • photo by Sankei Visual

 昨年球団最少の26個に終わった盗塁数は、今季すでにリーグトップの54個。赤松真人外野守備・走塁コーチは「選手は変わっていないなかでこれだけ数が増えているのは、技術が急に上がったわけじゃない。選手に『いっていいよ』と後押ししているだけ。選手が失敗したことを考えずにスタートをきることができている」と、新井イズムの効果を口にする。

【セオリーにこだわらない】

 また、勝負勘の鋭さも見逃せない。8月4日の巨人戦(マツダスタジアム)、2対3と1点ビハインドで迎えた9回、新井監督の大胆な一手で勝利を呼び込んだ。

 先頭の菊池涼介がチーム5イニングぶりとなる安打で出塁すると、打席には2番・野間峻祥。相手は巨人の抑え・中川皓太で「まずは同点」と考えれば、得点圏に走者を送ることが定石。だが、新井監督は犠打ではなく「打て」のサインを送った。その場面を新井監督が振り返る。

「野間は四球も選べますし、あそこは野間に賭けました」

 野間はカウント2ボール1ストライクからセンター前に弾き返し、一気に球場の雰囲気を上げると、そのまま劇的なサヨナラ勝利につなげた。

 試合前に対戦相手や自軍の選手の映像を見る監督は少なくないが、新井監督はチェックしない。コーチ陣やスコアラーへの信頼に加え、「一瞬一瞬で変わる試合中の判断が遅れてしまう」と生き物のように変わる試合展開を読みながら、勝負手を打つ。

 ベンチからのサインは、チーム全体へのメッセージとなる。コーチ陣との連携の高さもあって、"新井イズム"は着実に浸透している。代打成功率.235や3点差以内の勝率.609といったリーグトップの数字にも表れている。

 選手層では劣っても、「選手をやる気にさせる言葉」と「勝負どころでムチ打つ采配」で、首位・阪神に食らいつく。ペナントレースの行方を左右する8月戦線を乗り越え、チームを5年ぶりの頂点へと導けるか──新井監督率いるカープが、セ界の主役の座を狙う。

著者プロフィール

  • 前原 淳

    前原 淳 (まえはら・じゅん)

    1980年7月20日、福岡県生まれ。東福岡高から九州産業大卒業後、都内の編集プロダクションへて、07年広島県のスポーツ雑誌社に入社。広島東洋カープを中心に取材活動を行い、14年からフリーとなる。15年シーズンから日刊スポーツ・広島担当として広島東洋カープを取材。球団25年ぶり優勝から3連覇、黒田博樹の日米通算200勝や新井貴浩の2000安打を現場で取材した。雑誌社を含め、広島取材歴17年目も、常に新たな視点を心がけて足を使って情報を集める。トップアスリートが魅せる技や一瞬のひらめき、心の機微に迫り、グラウンドのリアルを追い求める

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