侍J戦士・吉田正尚に高卒→即プロをあきらめさせた男・釜田佳直が明かす「戦慄のサードフライ」と「果たされぬ出世払いの約束」 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

【吉田正尚との最後の対戦】

 釜田と吉田がプロの世界で初めて対戦したのは、2017年だ。釜田はプロ6年目、吉田は2年目だった。

「正尚が大学で力をつけていたのは知っていましたし、映像を見て『やっぱりすごいな』と思っていました。でも、僕は高卒でプロ入りしてるので、『大卒の人には負けたくない』という思いがありました。正尚に対して抑えている感覚はあまりないんですけど、高2の時に対戦したイメージそのままでいけたところはあったかもしれません」

 2017年は6打席対戦し、5打数ノーヒット、1四球と釜田が抑えている。2018年以降は2打数1安打、3打数1安打と、吉田に単打を許している。

 最後の対戦は2020年だった。釜田に「覚えていますか?」と聞くと、「たしかライトオーバー(二塁打)ですよね」と返ってきた。

「昔みたいに真っすぐとスライダーで押して、ねじ伏せるピッチングはできなくなっていました。自分のできるなかで最高のピッチングをしようと考えて、なんとか芯を外そうとしたんですけど」

 だが、いくら策を弄しても吉田を抑えるのは至難の業だった。釜田はその恐ろしさをこう語る。

「攻めどころが難しいうえに、どこに投げてもバットに当てるので『シングルヒットならオーケー』と割りきるしかありません。ピッチャーにそう思わせること自体、一流の証拠ですよね」

 2021年以降に対戦がなかったのは、釜田の一軍登板機会が限られていたからだ。そして2022年オフ、戦力外通告を受けた釜田は12球団合同トライアウトを受験してオファーを待ったものの、最終的に引退を決断した。

 野暮な質問と思いつつも、聞かずにはいられなかった。プロ1年目の自信を持って投げていたあの頃に、今の吉田と対戦したかったのではないかと。だが、釜田は爽やかに笑って「それはあまりないですね」と否定した。

「その時、その時に自分のベストは出せていたと思うので」

 引退表明のツイートに吉田が反応してくれたことについては、「めちゃくちゃうれしかった」と釜田は笑う。今季からユニホームを脱いで楽天のスコアラーとして働く釜田は、海を渡る吉田についてこう語った。

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