侍J戦士・吉田正尚に高卒→即プロをあきらめさせた男・釜田佳直が明かす「戦慄のサードフライ」と「果たされぬ出世払いの約束」
それは思いがけないメッセージだった。
2022年11月16日14時41分、東北楽天ゴールデンイーグルスの釜田佳直は自身のTwitterアカウントで現役引退を表明した。「僕に携わってくれたすべての方々に感謝申し上げます」という言葉に、釜田の人柄が滲んだ。
その約3時間後、釜田のツイートを引用する形で、ある人物がツイートする。
〈センバツをかけた北信越大会で5タコ 野球人生一つのポイントとなる試合でした。プロで対戦でき感慨深かったです。現役生活お疲れ様でした。〉
ツイート主は吉田正尚。2022年限りでオリックスを退団し、MLB・レッドソックスで5年総額120億円超といわれる大型契約を結んだ打者である。
入学直後から敦賀気比の4番を任されていた吉田正尚この記事に関連する写真を見る
【4番・吉田正尚に完全勝利】
この吉田のツイートを目にした筆者は、13年前の秋に富山・魚津桃山運動公園野球場で見た光景を思い出していた。球場の外でヒザを立てて座り、両腕で顔を隠すようにうなだれる吉田の姿を。
2010年10月24日、秋季北信越大会準々決勝で両者は対戦していた。釜田は金沢のエースとして、吉田は敦賀気比の4番打者としてこの日を迎えていた。
釜田は9回に集中打を浴びるなど、被安打13、失点5と決して満足のいく内容ではなかった。それでも試合に勝利し、4番の吉田とは5回対戦し、ノーヒットに封じた。試合後、エースはこう語っている。
「敦賀気比の打線はスイングが強くて、ウチより振れていました。でも、相手の4番を抑えれば、黙るかなと思って」
13年の時を経て、当時の発言を本人に伝えると、釜田は顔をのけぞらせて爆笑した。
「本当ですか? うーん、口が悪いですね」
吉田のことは対決前から認識し、強く意識していた。高校1年の夏、甲子園のテレビ中継を見ていると、中学時代にボーイズリーグの北信越選抜に選ばれたチームメイトが吉田を差してこう言った。
「こいつと一緒にやってたんだよ。とにかくすごいヤツだよ」
吉田は入学直後から敦賀気比の4番に座り、1年夏の福井大会では打率.615の大暴れで甲子園に出場した。翌春センバツも出場し、開幕戦で強豪・天理を相手に3安打を放って勝利に貢献した。
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著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。