「球界一のノッカー」海を渡る。NHKでも取り上げられた手腕は新天地・台湾で何を掴んでくるのか (3ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • 西田泰輔●撮影 photo by Nishida Taisuke

【台湾から予想外のオファー】

 快挙の裏にあったのは、田中の高いプロ意識だった。玉木が振り返る。

「春季キャンプ中から居残り練習を行ない、自分から『ノックを打ってください』と言ってきました。そのなかで『逆シングルでこうやって捕ったら早く投げられるよ』などとアドバイスしていきました。2017年はエラーが16個あったけど、翌年は7個まで減らしています。本人が高い意欲を持ちながら努力したことで、田中広輔は成長していきました」

 一軍では「勝たなくてはいけない」なか、2016年から球団史上初のリーグ3連覇に尽力。強いカープを支えたのは、「当たり前のプレーを当たり前にする」ことだった。守備では打ち取ったゴロを確実にアウトにし、走塁では全力疾走するといったプレーだ。

 文字にすれば"簡単なこと"のように映るが、半年間に週6のペースで143試合を消化するペナントレースでは、決して容易なことではない。だからこそ、多くの指導者が「当たり前のプレーを当たり前にしろ」と口にする。

 玉木も口を酸っぱくして伝え続けながら、チームの成長を実感した。

「当たり前のゴロをアウトにし、全力疾走する。そうしたプレーを徹底させることで、選手は意識づけができてきます。特に最初の2016年の優勝は、試合をするごとに成長していきました。

 たとえば、ピッチャーがファーストのベースカバーに遅れたら、選手同士で『しっかり入れ』と叱咤激励する。コーチが言わなくても、選手たちにそういう意識がありました。ベンチ内の言葉にも厳しさを持って言い合えていたので、これは強いチームだなと単純に思いましたね」

 玉木は2022年限りで広島と契約満了になったが、今後もユニフォームを着てコーチ業を続けたいと考えた。自身のコネクションを通じて動き出すと、思いもよらぬオファーが届いた。

「台湾の統一ライオンズが、NPBの経験があるコーチを欲しがっている」

 同学年で、ニュージーランド代表の指導歴もある清水直行(元ロッテ)から、そう聞いた。

 BCリーグ・茨城アストロプラネッツのGMで、アメリカで各地を転戦しながらMLB球団や独立リーグとの契約を目指す「アジアンブリーズ」を運営する色川冬馬が、野心ある人材を探していたのだ。

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