「球界一のノッカー」海を渡る。NHKでも取り上げられた手腕は新天地・台湾で何を掴んでくるのか

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • 西田泰輔●撮影 photo by Nishida Taisuke

 千賀滉大が海外FAでソフトバンクからニューヨーク・メッツへ、吉田正尚がポスティングシステムでオリックスからボストン・レッドソックスへの移籍を果たした今オフ、もうひとりの日本人が海外挑戦を決めた。

 広島東洋カープで守備・走塁コーチを12年間務めた玉木朋孝が、台湾の統一ライオンズから守備コーチに招聘されたのだ。

「球界一のノッカー」として知られる玉木朋孝コーチ「球界一のノッカー」として知られる玉木朋孝コーチこの記事に関連する写真を見る 彼の名を聞いて、ピンと来る人は決して多くないかもしれない。現在47歳。東京・修徳高校から1993年ドラフト3位で広島に指名されて7年間在籍、2001年からオリックスに移籍して5年間プレーしたが、2005年に現役引退。通算12年間で1度もレギュラーにはなれなかった。

 現役引退後は広島のスコアラーを務め、2011年に二軍守備走塁コーチに就任。その後、玉木の手腕は知られるようになっていく。

 球界一のノッカー。

 玉木はいつしか、そう言われるようになった。強弱、リズム、打球の質──。目的に合わせて打ち分けながら、選手の守備力アップに寄与していく。ノック道の飽くなき追求は、NHK BS1の『球辞苑』でも取り上げられたほどだ。

「単純に、現役時代に大した選手ではなかったですからね。コーチになった以上、他球団のどの指導者より絶対うまくなってやろうと。試行錯誤しながら、いろんな打球を打つ練習もしました。ユニフォームを着てプロである以上、選手のためにならないといけない。それが自分のためにもなるので」

 打球を遠くに飛ばしたい時は、トスを高く上げる。トスの高さで弾道をコントロールするのだ。逆に打球を詰まらせる場合は、体の近くにトスする。ゴロを打つ時はボールの上部の3分の2を潰すようにして打ち、フライなら下部の3分の2を上から潰すようにスイングする。

 こうした技術面の追求に加え、ノックに込める目的も深い。

「春季キャンプでは体づくりから始まるので、打球にどういう強弱をつければ足を使って捕球体勢に入れるかを考えます。動くことで体力アップにつながるので。実戦に近づけば、強い打球や横に振る打球など実戦と近いノックを打つ。そうやって1年間のスパンを考えて、ノックの『弱い、中くらい、強い』という分け方でいろんな打球を打ちます」

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