「球界一のノッカー」海を渡る。NHKでも取り上げられた手腕は新天地・台湾で何を掴んでくるのか (2ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • 西田泰輔●撮影 photo by Nishida Taisuke

【田中広輔も教え子のひとり】

 玉木はカープにコーチとして在籍した12年間で、一軍と二軍に配置された。ノックを打つ際、打球に込める意図は一軍と二軍で異なってくる。

 二軍では林晃汰、羽月隆太郎ら将来のレギュラー候補と期待される若手に対し、長いペナントレースを戦い抜けるだけのスタミナづくりを求めた。

「二軍の選手はまだ体力が十分ではないので、ノックを受けさせるだけではなく、ゴロを転がして、足を使って補球してスローという基本動作をシーズン中にもさせました。夏場は暑くてバテてしまうので、そこまでにどう体力をつけるか。野球の動きも身につけさせながら、一軍で"使える"選手に育てることを考えていました」

 対して、一軍のレギュラークラスはセカンドの名手・菊池涼介に代表されるように、「ほとんど完成されている」。彼らがコーチに求めたのは「どうなっていますか」「今、僕はどうやって捕っていますか」など、"鏡"としての役割だった。

「今、足が動いていないから、前に出られていないんだぞ」「もう少しグローブを下から出さないと対応できないよ」などと、玉木は自分の目で観察したことに加え、対応策を提示した。

「コーチ」の語源は「馬車」で、望まれた目的地に連れていくことが役割だ。玉木が続ける。

「『守備にスランプはない』と言われますよね。たしかにスランプはないけど、自分が思っていることと"ズレ"が生じているから、合わなくなることがあります。選手はそういうことを聞いてくるので、『今はこうなっているから、ちょっと合ってないぞ』とアドバイスしていく。そういう会話をすることで選手の意識が変わってくると、『なるほど』と納得してやってくれます」

 玉木が広島のコーチ時代、特にうまく寄り添えたひとりが田中広輔だ。

 入団2年目の2015年からショートのレギュラーを不動のものにすると、翌年から3シーズン続けてフルイニング出場を達成。2018年には坂本勇人(巨人)、大和(DeNA)、京田陽太(当時中日/現DeNA)ら群雄割拠のセ・リーグのショートで自身初のゴールデングラブ賞に選出された。

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