トライアウトで対峙した元広島ドライチコンビのプライド。「こんなあっけなく野球人生に幕を下ろすのは納得いかない」 (2ページ目)

  • 杉田純●文 text by Sugita Jun
  • photo by Murakami Shogo

 一方で、安部より1つ年上の福井は「まだまだ自分はプロの世界でやれる」という思いでトライアウトまでの日々を過ごし、本番のマウンドに立っていた。

 福井は2010年に広島から1位指名を受けた。"ハンカチ王子"斎藤佑樹(元日本ハム)や6球団競合の末に西武に入った大石達也らとともに早稲田大学で活躍し、「早大三羽烏」として全員が鳴り物入りでプロの世界に飛び込んだ。

 だが、プロ入り時の期待とその後の結果が一致しないのは球界の常でもある。

 大石はケガにも悩まされ、通算5勝6敗8セーブで2019年に引退。斎藤も開幕投手を任されるなどしたものの、プロの壁を破れず通算15勝で昨年オフに現役を退いた。

 福井も2022年までの12年間で通算32勝。2ケタ勝利のシーズンは一度もなく、決して目立った成績ではない。だが広島では投手キャプテンも務め、安部と同じくチームの3連覇にも貢献した。

 広島、楽天と渡り歩きながら大学同期のふたりよりも勝ち星を重ね、気がつけばかつての三羽烏のなかで最後の現役選手となっている。

「あまり意識はしてないですかね。ふたりより長くやろうとも思ってないですし、やったからすごいってわけでもないと思うので......。でも、ふたりの声を励みにしながら12年間頑張ってこられた。トライアウトの前にも斎藤から『頑張ってね』ってLINEがきました」

トライアウトでまさかの対戦

 福井の登板は、最後のブロック。うしろから数えて4番目だ。打者3人中、先頭の西巻賢二(元ロッテ)を幸先よくピッチャーゴロに打ちとると、打席には安部が入った。

 安部はここまで3打数1安打。スタンドに駆けつけた元チームメイトの長野久義が安部の座右の銘である"覇気"Tシャツを掲げて応援するなか、第2打席で井納翔一(元巨人)からセンター前に運んでいる。

「嫌だなと思いました。(安部は)いいバッターですし。でも、いいバッターを抑えれば評価につながるというか、『やってやろう』って気持ちでした」

 のちにそう振り返った福井は、インコースへの真っすぐ、外に落ちる変化球と剛柔自在に安部を追い込んでいく。

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