トライアウトで対峙した元広島ドライチコンビのプライド。「こんなあっけなく野球人生に幕を下ろすのは納得いかない」 (3ページ目)

  • 杉田純●文 text by Sugita Jun
  • photo by Murakami Shogo

 安部の胸中にも去来するものがあった。

「やっぱり、思うこともありましたね。プライベートでもよく一緒に食事に連れて行ってもらったり、家族同士の交流だったりとか、本当によくしていただいて......でも(対戦は)本当に楽しかったです」

 2ボール2ストライクと追い込まれたあとの5球目。139キロの球に詰まらされた安部の打球は、センターのグラブへと収まった。

「まさかあんなシュート投げてくるとは思わなかったです」

 笑い交じりに安部は語った。

「もともと真っすぐが強くて、フォークもあって、スライダーもよくて、それでシュートも投げられる。まだまだ福井さんはいけると、僕自身は思っているので......」

 安部を打ちとった福井は、続く3人目の宮本秀明(元DeNA)も空振り三振に仕留めると、汗を拭いながらマウンドを降りる。その先には、対戦を終えた盟友・安部が出迎えていた。

 ほんの一瞬、握手を交わしたふたりは笑顔だった。

「基本的に全球よかったかなと。内にも外にも投げられましたし、ちょっと甘めにいってもファウルとかとれたので、よかったかなと。アピールはできたのかな」とやりきった表情の福井は、「こんなあっけなく野球人生に幕を下ろすのは納得いかない」と現役続行へ向けての強い意志を見せている。

 安倍も「結果は散々でしたけど、こうやってグラウンドで野球できる喜びを噛みしめて、今日は楽しめた。(福井との対戦は)やりにくかったですけど、本当に楽しかった」と笑顔を見せた。

「(NPB以外でも)自分自身が人間として成長できる環境であれば、それは『ぜひ!』って感じです。家族もいますので、いろんな方と相談しながら決断していこうと思います」

 ドラフト1位で25年ぶりのカープの優勝に貢献したふたり。トライアウトで再び交えた縁は、今日からまた違う道へと歩んでいく。「今日は本当に幸せだった」と福井との対戦を振り返った安部が、最後にこんな言葉をつけ加えた。

「まだ一緒にユニホームを着ることができたらな......と思っています」

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