元阪神・田村勤はプロ初登板で被弾し、首脳陣の交代要請を無視。コーチはキレて野手はあ然としていた (3ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Sankei Visual

 あるチームのベテラン投手が茶目っ気を出し、マウンドに来た監督にボールを渡さない、というシーンは過去にあった。しかし田村は新人で痛打されたのだ。この試合のテレビ解説の江夏豊(元・阪神ほか)が「ボール渡さないですね。これはちょっと面白いですね」と言ったそうだが、首脳陣に逆らったのも同然。試合後、宿舎に帰ってから大石コーチに呼び止められたという。

「ホテルで『ご飯食べてから部屋に来い』って言われたんです。命令違反ですからね。『怒られるんだろうな』『二軍に落とされるんじゃないか、ヤバいな』と思いながら行きました。そしたら大石さん、ニカーッとして。『おまえ、まだ投げたかったんか、あの状況で』って言われたんです。

 すぐに『投げたかったです』って返事したら、『わかった。じゃあ、明日も投げさせてやる』って言われて。『そうかぁ!』と思って。落とされると思ったらもう1回チャンスがある、ということで何かうれしくなったのを覚えています」

1年目から50試合に登板

 大石コーチが田村の気持ちを買ってくれたのだ。江夏が「面白い」と言ったのも同じ意味合いだろう。そして実際、次の広島戦で出番が回ってきた。先発の藤本修二が2回につかまり、6安打で4点をとられて降板。一死三塁で5番・小早川に打順が回ったところで田村が登板した。

「初登板の時とほぼ同じ場面でした。カーブをホームランにされたんで、その日はストレートを投げたんです。打球が上がったから一瞬、『うわっ』と思って。ライトフライでおさまったんですけど、犠牲フライで1点とられたんですね。それで、次の山崎さんをアウトにしてベンチに帰ったら『ナイスピッチング』って言われて。大石さんも『ナイスピッチング』と。『えっ?』と思って」

 社会人時代、犠牲フライを打たれるだけで首脳陣から怒られていた。ゆえに田村は、褒められても素直に喜べなかった。だが、プロは同じ相手と何度も戦う世界。痛打された打者を次の対戦で仕留めることが大事であり、その意味で、前回登板で打たれた小早川、山崎をアウトにした結果が「ナイス」だったのだ。
 

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