メキシコへ渡った元DeNA乙坂智の今。戦力外、トレードを経験するもリーグ10位の112安打で「目標はメジャーリーグ」 (2ページ目)

  • 阿佐智●文・写真 text & photo by Asa Satoshi

 選手のほうも、ここで現役生活をまっとうするつもりの者は決して多くなく、他国の球団といい条件の契約を結ぶため爪を研いでいる。そんな「同床異夢」のリーグで、乙坂自身、2度の移籍を経験しながらもシーズンを駆け抜けた。

「僕自身も経験したんですけど、選手の入れ替えがすごく多いというのは感じました。僕はここでは外国人選手で、競争相手、比較対象が中南米、あるいはアメリカの選手だったので、やっぱり彼らと差をつけることが一番大事だなと感じました」

 キャンプを過ごしたメキシコシティのスタジアムの打球は、思いのほか伸びていった。標高2000メートルを超える高地では、角度のついた打球はなかなか落ちてこない。そのため、この国では内陸に位置する"高地"のチームと、海岸沿いの"低地"のチームではゲーム運びも違ってくると乙坂は言う。

「打つほうに関しては、そもそも僕はそういうタイプではないので、(打球が飛ぶからといって)大きいのを狙うことはなかったです。むしろ、守りのほうで苦労しました」

 リードオフマンタイプの乙坂にとって、メキシカンリーグを16回制した名門は相性がいいチームではなかったのかもしれない。オープン戦で3割を超えるアベレージを記録しながら、開幕直前にリリースされたのだ。

「まあ、戦力外は日本でも経験しているんで(笑)。いや、(DeNA時代に参加した)メキシコのウインターリーグでもあったので、2回ですね」

過酷なメキシカンリーグのリアル

 2週間──これが乙坂の決めたリミットだった。

 リリースを通告された直後、球団のGMから今年発足したというベネズエラのサマーリーグを紹介された。しかし、メキシコで勝負すると決めていた乙坂はその申し出を断り、ホテルの部屋を押さえ、他球団からオファーを待つことにした。

「不安はありました。この先どうなるんだろうって。オファーがなければ、もうそこで野球は終わりだと決めていましたから。2、3日くらいボーッとしていましたね。自分に何が足りなかったのか、なんでこんな結果になったのか......そこはすごく考えました。

 結局、レッドデビルズが求めていたのは、もっとレベルの高い選手だったということです。でも、レッドデビルズを戦力外になった日のバッティングがとても調子がよくて、この感覚なら『ひょっとするな』という感じがあったんです。そうやって考えているうちに、やっぱり僕が勝負できるものって足だなって思ったんですよ。もし契約してくれる球団があったら、そこを積極的に試合のなかで生かしていこうと」

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