村上宗隆と清宮幸太郎との間になぜ決定的な差が生まれたのか。広岡達朗は「選手は入った球団によって野球人生が決まる」 (3ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin
  • photo by Koike Yoshihiro

一流になるには一心不乱に練習すべし

 広岡は西武の監督時代に、高卒5年目の秋山幸二をいきなりサードのレギュラーに抜擢した。

「秋山はバッティングコーチの長池(徳士)が『鉄は熱いうちに打て』と言って、二人三脚でずっとやっていた。『インコースはこう打て』と、とにかくマシンでずっと打たせていた。だが途中でパタっと打てなくなり、ふたりとも途方に暮れた。理論がわかったからといって打てると思ったら大間違い。長池が『どうしても打てないんですが、どうしたらいいですか?』と聞いてきたから、『理論を忘れる練習に入る時期だ』と答えた。要するに、理論を追い求めるから打てないのであって、そこにボールがあるから夢中になって打つのが本物の打撃というもの。とにかく理論や理屈を忘れて、一心不乱に練習をやることだ」

 広岡は日本刀で藁を真横に斬る練習をさせた。真横に斬るには、弱いほうの手に強いほうの手を合わせるのがコツ。その逆で斬ろうとすると、偏った切り口になってしまう。まず広岡は、コーチが手本を示さないと選手は言うことを聞かないということで、長池に特訓させた。なんとか長池が斬れるようになってから、秋山を呼び寄せた。

「秋山、コーチがやるように斬ってみろ!」と広岡が言うと、なぜか長池は失敗を恐れてなのか「監督、先に斬ってもらえないでしょうか」と言ってきた。すると広岡氏は裸足になって、見事真横に斬ってみせた。

 日本刀で藁を斬らせる意図とは、集中力の鍛錬である。そこには理論や理屈はなく、ただ集中して正しく日本刀を振りおろす動作だけだ。それによって秋山はスランプを脱したという。そこから秋山の打撃は覚醒し、春季キャンプであまりに軽々と場外に打つものだから、春野球場(当時)にネットを張ったのは有名な話だ。

 また広岡は、アドバイスを求めることも重要だと語る。

「張本(勲)にしても、パ・リーグにいる時、巨人が関西遠征の際は宿泊先のホテルに来て『インコースが苦手なんで教えてくれませんか』と聞きにきた。大打者は先人たちに聞きにいったりして、個人で勉強したものよ」

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