投げすぎと投げなさすぎのボーダーラインは? ステージごとで変わる「野球ヒジ予防」の認識 (2ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 ヒジが痛くなった場合、どの病院で診てもらえばいいのか。ドクターによって方針や腕は異なり、同じ症状でもメスを入れるか、自然療法にするのか、その判断も変わってくる。

 野球人生に"ハウツー本"のような答えはない。だからこそ周囲の大人に丸投げするのではなく、選手自身が決断に責任を持ち、自分の将来を切り開いていく。そうした力が、令和を生きる選手にはいっそう求められている。

 投手の"投げすぎ問題"が議論されるようになって10年近くになる。同時に聞こえてくるのが、「最近の子は投げなさすぎ」という声だ。

「どっちが正解とも言えない。聞かれたら、いつもそう答えています」

 中日時代に2度の最多勝に輝いた吉見一起は、あえて答えを明言しなかった。

「学童と、高校生などある程度成長した段階では考え方が違ってくると思います」

 大学まで野球経験者で、トミー・ジョン手術の執刀医でもある岡山大学整形外科の島村安則医師はそう見解を示した。

 巷で議論される"投げすぎ問題"にはさまざまな論点が絡むなか、両者に共通するのは野球人生のステージごとに分けて考えるべきという点だ。

 小学生の頃から「よく投げていた」と振り返る吉見だが、以上のように思い始めたのは、少年野球をしている息子を通じての経験が大きい。「ヒジが痛い」と言うから病院でレントゲンを撮ってもらったら、骨の途中に黒い線のようなものがあった。

 吉見は骨折を心配したが、「子どもだから、まだ骨がくっつく途中なんです」と医師に骨端線の存在を教えられた。成長線とも言われ、子どもに特有の軟骨で成長に伴って骨が伸びていく。そうした事情を踏まえると、小学生には球数制限が必要だと吉見は考えている。

 全日本軟式野球連盟の規定では、学童部は1日70球以内(小学4年生以下は60球以内)という球数制限が定められている。大きな目的のひとつが「野球ヒジ」の予防だ。

 3月31日のロッテ対ソフトバンク戦の前に106人の子どもを対象に検診が行なわれ、40%に当たる39人にヒジの障害既往歴があるというニュースが報じられた(4月1日の『スポーツ報知』より)。各種データを踏まえると、日本ではこれくらいの野球少年少女にヒジの故障経験があると考えられるだろう。

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