原辰徳監督と阿部慎之助から信頼を得たきっかけ。橋上秀樹が明かす巨人選手たちの舞台裏 (3ページ目)

  • 岡田浩人●取材・文・写真 text & photo by Okada Hiroto

 首脳陣の信頼を勝ち取った橋上氏は、同時にその的確なアドバイスで選手からの信頼も勝ち取っていった。特に安田学園高校の後輩でもある阿部慎之助(現・巨人二軍監督)は全幅の信頼を寄せた。きっかけとなる出来事があったという。

「2012年まで、阿部は高い打撃技術を持っているにもかかわらず、なぜかタイトルを獲ることができないでいました。そこで阿部に対して『配球』の話をしました。それまでは打者と捕手を別々に考えているように見えた。まず言ったのが、『打者・阿部慎之助』として考える相手バッテリーの配球を、『捕手・阿部慎之助』の時に生かすこと。それが、相手のウラをかくことや、かわすリードにつながるのではないかとアドバイスしました。同じように、捕手としての心理を、打撃にも生かせば、もっと成績も向上するはずだと。それ以降、阿部は打席に立つ際、狙い球をどう絞るのか、状況に応じてどういう打撃をしたらいいのか、より深く考えるようになったと思います」

 橋上氏が戦略コーチに就任した2012年、阿部は打率.340、打点104で打撃タイトル二冠を獲得した。卓越した打撃技術に、橋上氏のアドバイスを生かした捕手としての「読み」を加えた結果だった。

「阿部からは『僕がタイトルを獲れたのはあのアドバイスのおかげです』といまだに感謝されています。もともと阿部は高い技術を持っていたので、私は彼が持っているポテンシャルを引き出す"きっかけ"を与えたにすぎないと思っているのですが、そう言ってもらえるのはうれしいことです。阿部の成績が上がったことで、巨人の他の選手もアドバイスを聞いてくれるようになった。阿部慎之助というチームの中心選手を味方につけたことで、巨人で信頼されるようになったと思います。

 ただアドバイスの仕方は選手によって変えました。一番わかりやすい例が坂本勇人と長野久義(現・広島)です。坂本はこちらから多くのことを言うと"拒否反応"を示すようなタイプ。そのため、あえていろいろ言わないようにして、本人が興味をそそる程度のデータを提供し、あとは自分から聞いてきたら答えるようなスタンスにしました。一方、長野は、事前に聞けるデータはすべて聞きたいというスタンス。こんなに聞いたら頭が混乱するのではないか、というくらい相手の細かなデータを希望してきました」

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