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石井琢朗コーチが感謝する、
「新井さん」が放ったチャンスでの凡打 (3ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • 西田泰輔●写真 photo by Nishida Taisuke

 2016年8月7日、広島対巨人18回戦は試合序盤から点の取り合いとなった。2回に3点を先制した広島が中盤に逆転され、追いついても終盤に勝ち越される展開。それでも6対7と1点ビハインドで迎えた9回裏、二死から2番・菊池涼介が起死回生の同点本塁打を放つ。さらに3番・丸佳浩が四球で出ると、4番・新井貴浩がレフトにタイムリー二塁打を打ってサヨナラ勝ち。劇的な幕切れとなったが、石井自身、この試合で特に印象深かったのが、「劇的ではない新井の打撃」だったという。

「3対5の5回裏、一死二、三塁。ここで新井のセカンドゴロの間に1点。その後、5対7で迎えた7回裏、一死一、三塁。またもや新井でセカンドゴロでしたが、ボテボテでゲッツー崩れで1点。どちらも追いついてませんが、追いかけるためにはすごく必要な1点でしたし、まさにアウトもムダにしない打撃を、新井が実践したのがキーポイントなんです。というのは、2000本安打も記録したベテランになると、どうしても自分の形で打ちたくなる。それで結果、三振でも仕方ないって周りも納得します。でも新井は、なんとかしよう、泥臭くてもいいから1点を取ろうという姿勢を率先して示してくれた。『新井さんがやってるんだったら、僕らもやらなきゃ』って、若い選手は強く思いますよね」

「言うは易し」のコーチがしつこく言い続けるよりも、「行なうは難し」の選手自ら模範を示すほうが影響力は強い。それも田中広輔、菊池、丸、鈴木誠也といった若い主力以上に、精神的な支柱たる「ベテラン・新井さん」の影響力は甚大となる。ゆえに、もしもそんなベテランがコーチの方針に従わず、好き勝手にやっていたら、その姿を目にした若い選手がどうなるか、石井には容易に想像できたという。

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