崖っぷちの広島に、前田智徳が託した最後の思い
広島が「史上最大の下克上」を狙うセ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ。その第2戦に、今季限りで引退した前田智徳がテレビ中継のゲスト解説者として東京ドームに姿を見せた。試合前の練習にスーツ姿で現れた前田は、野村謙二郎監督らと挨拶を交わした後、前田健太や野村祐輔らと握手を交わし、前日の試合で4安打を放った菊池涼介には「頑張ってくれよ」と声を掛けるなど、ともに戦ってきた選手たちを激励した。
寺内に一発を浴び、天を仰ぐ広島のエース・前田健太
山本浩二、金本知憲両氏とともに解説席に座った前田は、恩師である山本氏に「初めてにしてはよく喋ったな」と言われるほど、順調に解説デビューを果たした。
寡黙で他を寄せ付けないイメージのある前田だが、近年は特に若手選手に対して、自ら声をかけるようになっていた。いまや中継ぎエースとなったプロ4年目の今村猛のように「今年くらいからやっとしゃべれるようになった」という選手は少なくない。
球界を代表するエースとなった前田健太も、「ちょっと前までは、話すこともできなかった」と、独特のオーラを感じていたことを明かした。それでも、引退セレモニーで花束を手渡した際には、「前田さんの表情を見てグッときました。『ケガには気をつけろよ』と声を掛けてもらいましたが、前田さんの言葉は重みが違います」と、涙を止めることができなかった。
今季から打撃コーチ補佐兼任となった前田だが、同じ外野手の赤松真人が「教えるのがすごくうまいと思った。自分から聞きにいけば、個々の選手に合わせて指導してくれる」と言うように、コーチとしての素養も十分のようだ。
特に、前田から目をかけられていたひとりが、同じ左打者の丸佳浩だ。「入団してからずっと見てきました。しっかりした考えの上に、しっかりした技術があった」という憧れの存在だった前田に、「いろいろとアドバイスしてもらいました。技術的なこともそうですが、場面ごとに打席に入るときの心構えや、考え方など、精神的な部分のことも教わった」と、主軸打者としてのあるべき姿を継承された。
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