大谷翔平が大きな影響を与えるMLBのビジネスマーケット 「ワールドシリーズ」「ドジャース」の価値 (2ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【ドジャース球団社長が絶賛する大谷の波及効果】

 今年8月、ドジャースのスタン・カステン球団社長は、筆者とのインタビューで大谷人気について、このように絶賛していた。

「翔平は年齢、性別、人種、職業、住んでいる地域など関係なく、ロサンゼルス中の人々を魅了している。収入や教育レベルも関係なく、あらゆる社会経済層にアピールしている。ドジャースのブランドは以前から世界に浸透していたけど、翔平が加わったことで最高のシナジーを生み、メジャーリーグ全体にとっても大きなプラスになった。ドジャースブランドのみならず、メジャーリーグのブランドも強化され、世界規模でのビジネスの発展に貢献した。野球人気が伸び悩んでいた国も含まれている」

 ドジャースが今季、日本企業12社とスポンサー契約を結んだと報じられているが、カステン社長はその時点で「おそらくもっと増えている。ロサンゼルスの市場で、すでに存在感を示してきた企業のみならず、これから進出を目指す企業も大変な関心を寄せている。来季になれば、ドジャースタジアムで新たな広告枠が利用可能になる。多くの企業が順番待ちをしている状態」と明かした。

 恩恵を受けているのは、ドジャースだけではない。ドジャースが遠征で訪れる他球団の球場の広告スポットも買われている。

「今年に限らず、私たちドジャースがビジネスで成功することが、球界全体にいい影響を与えているのは間違いない。MLBの収益分配制度において、私たちは長年にわたり重要な役割を果たしてきた。分配を受け取る側のチームは、私たちの得た利益を共有できる。

 しかし、今季とりわけ重要なのは、ベースボールというスポーツへの注目度が高まり、その地位と人気が上向いたこと。以前にも増して多くの人々が関心を持っている。先日、初めてドジャースタジアムに来た人たちと一緒に観戦したが、彼らは大谷翔平の名前を知り、そのプレーをその目で見たくて球場に足を運んだ。翔平は新しいファンをたくさん引き寄せており、球場での観戦を通じて野球に興味を抱き、好きになっていく様子が見うけられた。このような動きはすべての球団にとってもすばらしいことだよ」

 SNSの浸透も成功に拍車をかけている。ドジャースはヤンキースにソーシャルメディアのフォロワー数(1290万人対1760万人)では劣っているが、エンゲージメント(ユーザーの参加や関与)の回数では、トップだった。「いいね」や、リポスト、コメント、動画視聴回数が著しく増えた。今季、ドジャースのソーシャルメディアのフォロワー数は230万人以上も増えたが、これもリーグで最も多かった。

 MLBの人気を牽引する最大のスターが日本人であり、ワールドシリーズをテレビで最も多く視聴したのも日本人。SNS上でも英語と日本語が入り交じり、ヒートアップする。長いMLBの歴史のなかでも、2024年が特別な意味を持つシーズンであったことは間違いない。

 カステン社長にドジャースの今後10年のビジョンを尋ねると、こう語った。

「毎年ワールドシリーズに勝ちたい。それが本当に、私のシンプルな答えです。しかし現実的には、それは簡単には実現しません。相手は非常に頭がよく、情熱的な29球団ですから。選手もフロントも全力を尽くしています。そのため、我々が毎年勝てるわけではありません。それでもドジャースは常に優勝争いに加わり、毎年頂点を目指したいと考えています」

 彼の考えは、大谷と同じ方向を向いている。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

大谷翔平の全試合を現地観戦する「ミニタニ」2023

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