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川﨑宗則「逆境、いいじゃないか。笑っていこうぜ」 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Iashida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 まさかロベルト・アロマーやジョージ・ベル、ジョー・カーターといったトロントのレジェンドが球場のどこかにいるのかと、まず辺りを見渡した。あるいはトロント育ちのキアヌ・リーブスがフラッと試合を観に来たのだろうかと、立ち上がって指笛を鳴らす人の視線の先を追ってみた。しかし彼の眼差しは明らかにグラウンドへ注がれている。すると、彼はこう叫んだ。

「ムネノリ~ッ」
「カワサキ~ッ」
「ユーアー、ジャパニーーーーーズ!」

 まさか......この大歓声は川崎に向けられたものだというのか。タンパで聞くデレク・ジーターへの喝采の何倍も熱狂的な、このスタンディング・オベーション。8回表から守備固めで登場するマイナー契約の選手への拍手喝采とは思えない。

 ♪ピポパピポパポピ

 突然、スタジアムにドミニカの曲"テケテケ"がかかると、またもスタンドは大騒ぎだ。

 9回、チャンスで川﨑に打順が回ってきたのだ。そして彼はインサイドの厳しいボールを、バットを折りながらもフラフラッと打ち上げ、セカンドの後方、センターの前へポトリと落とした。試合後、クラブハウスでメディアに囲まれた川﨑は、「バットがへし折れて、最強の当たりや」とうそぶいていた。

 しかしその直後、ひとりになってイスに座り込んだ川﨑は、うなだれたまま、動かない。疲れていないはずがないのだ。

 オープン戦での川﨑は、毎日毎日、試合のメンバーに入っていた。レギュラーなら3試合に1試合は休みがある。しかし、マイナー契約の川﨑にそんな扱いはしてくれない。ベンチに入って、試合を観ながら、後半の出番までスタンバイしなければならない。いつ出番が来るかわからない、それも代打なのか代走なのか、守備固めなのかもわからない。さらに言えば、サードなのかショートなのか、セカンドなのか、ときには外野の可能性さえあった。そんな状況で、すべてに備えて準備をしておかなければならない。

 その数少ないチャンスに答えを求められる。さすがの元気玉も、珍しく、疲れを隠そうとしなかった。

「そりゃ、疲れますよ。毎日試合で、毎日フル出場(笑)。試合前からずっと準備して、試合中もスタンバイ。で、最後、試合に出るんだから、フル出場でしょ。いやぁ、疲れますよね、正直な話」

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