川﨑宗則「逆境、いいじゃないか。笑っていこうぜ」
ずいぶん長いこと野球を観てきたが、こんな光景を見るのは初めてだった。
何しろ、オープン戦である。
一般的に、メジャーのオープン戦にはレギュラークラスが5、6人出場する。1番バッターから5番か6番までがレギュラーの選手、下位の7、8、9番には70番台、80番台の背番号をつけた若手が名を連ねる。
チームメイト相手に積極的に話しかける川﨑宗則。
オープン戦とはいえ入場料を取る以上、レギュラーを半分は出場させなければならないというのがメジャーの不文律。若手を使うのはレギュラークラスを休ませる意味合いもあるし、彼らの力を試すという狙いもある。だいたい5回か6回でレギュラーはお役ご免、試合の終盤は若手、マイナー契約の選手たちが登場するというわけだ。
さて、驚かされたのは、フロリダ州ダンイーデンでトロント・ブルージェイズのオープン戦を観ていたときのことだ。試合は8回に突入、ここでブルージェイズはサードにマイナー契約の選手を入れてきた。
背番号66、川﨑宗則である。
場内アナウンスもいたって地味なものだった。
"サードベースマン、ムネノ~リ、カワサキ、ナンバー、66"
ところが──。
そのアナウンスの直後、ダンイーデンのスタジアムは耳をつんざくほどの大歓声に包まれたのである。
正直なところ、一瞬、何が起こったのかと思った。
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