ポスティング新制度案を白紙に戻した、MLBの本音 (2ページ目)

  • 笹田幸嗣●文 text by Sasada Koji
  • photo by Getty Images

 そして田中の市場価値が高騰したもうひとつの理由が、ニューヨーク・ヤンキース、ドジャースの金満球団が先発投手の補強を最優先している内情にあった。

 GM会議開催以前、田中の入札予測金額は6000万ドル(約60億円)から7000万ドル(約70億円)と報道されていた。そうした状況下で、ヤンキース、ドジャースをはじめ、シカゴ・カブス、ロサンゼルス・エンゼルス、トロント・ブルージェイズ、ボストン・レッドソック、テキサス・レンジャース、サンフランシスコ・ジャイアンツなど、10球団近くが入札に加わるだろうと報じられていた。

 だがGM会議の初日、ドジャース関係者のある発言が大きな注目を集めた。

「タナカの入札には1億ドル(約100億円)の投資もあり得る」

 昨年の3月にドジャースを買収したオーナーグループの資金力は、ヤンキースをもしのぐと見られている。事実、過去のマーケットの2倍となる20億ドルで球団を買い取り、その後もFAでザック・グリンキーと6年総額1億4700万ドルで契約し、キューバからヤシエル・プイーグ、韓国からはポスティングで柳振賢を獲得するなど、天井知らずの補強を行なった。

 このドジャースの鼻息の荒さをGM会議で各球団は敏感に察知した。その最たる例が、レンジャーズである。レンジャーズにとって田中は、ダルビッシュ有同様に長年調査を続けてきたターゲットであったが、ジョン・ダニエルズGMは12日、「先発投手だけにそこまでのお金は使えない」と、事実上の入札断念を示唆した。

 当初は10球団ぐらいが入札するであろうと言われていたが、あまりにも高騰する入札金に撤退ムードが高まり、最終的にはドジャース、ヤンキース、カブス、エンゼルス、ジャイアンツの5球団になるのではないかと予想されるようになった。

 そしてオーナー会議終了後の衝撃の発表。この舞台裏をニューヨーク・ポスト紙は、事の発端はピッツバーグ・パイレーツのフランク・クーネリー球団社長が、「小規模なマーケットを本拠地とする球団では、タナカの獲得は高額すぎて競争に加われない」と語ったことだったと紹介した。

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