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精彩を欠く筒香嘉智に名将が言い放った「もう野球をやめたほうがいい」 その夏の甲子園で覚醒し世代最強スラッガーとなった (3ページ目)

  • 楊順行●文 text by Yo Nobuyuki

【菊池雄星から特大アーチ】

 筒香とじっくり話す機会があったのは翌2009年、夏の神奈川大会を前にした時期だ。08年秋の神奈川で敗れたチームは、09年の選抜出場を逃し、筒香にとって最後の夏。まずは、渡辺監督に話を聞く。

「僕もびっくり。成長はすごい」

 そう指揮官が脱帽したのは、5月に行なわれた花巻東(岩手)との練習試合だ。選抜準優勝左腕・菊池雄星(現・エンゼルス)の外のカーブを、ライトポール際に運ぶ特大ソロ。この年のドラフト1位候補同士の対決で、あらためて世代屈指のスラッガーぶりをアピールしたのだ。

「春の関東大会あたりまでは、変化球をとらえきれず、真っすぐを打ちたいあまり、待ちきれずにボールにも手を出す。ところが、今はきっちりと見極められるし、飛距離だけではなくうまさが加わってきましたね」

 しかも筒香は3日前に発熱し、この日は出場しない予定だった。それが「相手もそうだけど、僕も甲子園で結果を出しています。負けるわけにはいかない」と、病院で4時間の点滴を打ち、強行出場。

 5回終了時にはふらふらで交代、という半病人状態での一発というからおそろしい。打撃練習を見る。ゆったりとした構えから鋭くはじき返された打球は、グン、グンと2段階に伸びてライトのネットを直撃する。

 もともとこのネット、筒香の入学後、上に5メートルほど継ぎ足されている。横浜の長浜グラウンドはライトの後方にマンションがあり、ヘタをすると筒香の打球が直撃しかねないためだ。それまでは、140メートルほど飛ばないとネットを越えなかったが、筒香の飛距離はそれを越えかねない。つまり、継ぎ足された分は"筒香ネット"と言うわけだ。実際、筒香ネットのはるか上を越す150メートル級の当たりも見た。さいわい、マンションから外れた右翼ポール際で直撃は免れたが、まさにマッハの打球だった。

【高校通算69本塁打をマーク】

 3年時の筒香は、キャプテンを務めている。「この年代には、言葉で統率できるそういうタイプがいない」という渡辺監督が、言葉ではなく、プレーで、バッティングで引っ張ってほしいという思いで指名した。

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