【ドラフト】日本海リーグの怪物・大坪梓恩 高校時代にドロップアウトも再び野球界へ 規格外のフルスイングで目指す未来 (5ページ目)
【チームメイトのプロ入りに刺激】
昨秋、大坪にとって新たな転機があった。チームメイトの川﨑俊哲が阪神から育成ドラフト4位指名を受けた。大勢の人々から祝福される川﨑を見て、大坪の心は強く揺さぶられた。
「NPBを目指してはいましたけど、漠然とした夢みたいな感覚だったんです。でも、川﨑さんが目の前で指名を受ける姿を見て、めっちゃいいなと思って。自分もみんなから認められる選手になりたい。そこから火がつきましたね」
気がつけば、ひとり暮らし生活は4年目に突入している。自炊にもすっかり慣れ、得意料理はたらこスパゲティだという。
「お金は大変ですけど、絶対に耐えられます。家族も応援してくれていますから」
目指す選手像は鈴木誠也(カブス)。大坪は「逆方向に長打が打てて、肩も強いので」と、その理由を明かす。
この日、かつてのチームメイトだった有薗は一軍帯同中のため、再会は果たせなかった。高校を退学したとはいえ、大坪は有薗に対して敬意を持って応援してきたという。
「高校時代から本当にコツコツと練習していました。NPBで有薗が苦労しているのを見て、やっぱり難しい世界なんだなと思い知りました。でも、有薗は焦らずに努力できるんですよね。4年間頑張って、プロ初ヒットを打って、本当にすごいと思います。有薗には『おめでとう』と伝えました」
一度は分かれた道が、再び交差する可能性は十分にある。千葉、岐阜、石川と渡り歩いた大男は、新たな扉に手が届く位置にいる。だが、それもまた通過点に過ぎないのかもしれない。
大坪梓恩、その潜在能力の底はまだまだ見えそうにない。
著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。
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