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夏の甲子園決勝で強豪PLと対戦 取手二の控え左腕・柏葉勝己が振り返る一世一代のワンポイントリリーフ (2ページ目)

  • 内田勝治●文 text by Uchida Katsuharu

1984年夏、決勝でPL学園を下し初優勝を成し遂げた取手二ナイン photo by Okazawa Katsuro1984年夏、決勝でPL学園を下し初優勝を成し遂げた取手二ナイン photo by Okazawa Katsuroこの記事に関連する写真を見る

【キャッチボールもせずにマウンドへ】

 しかし1点リードで迎えた9回、石田が先頭の清水哲に同点本塁打を浴びたことで、戦況がガラリと変わった。相手は「逆転のPL」の異名を誇る王者。木内の指示もあり、急いで肩をつくろうとしたが、予想外のことが起きた。

「控え捕手の桜井(繁)に『行くよ』と声をかけたら、『ミットがどっかにいっちゃった』と探しているんです。そうこうしている間に、石田が2番の松本(康宏)に死球を当ててしまい、そこで行けと言われ......。結局キャッチボールもできないままマウンドに上がりました」

 マウンド上での投球練習が勝負だった。柏葉の持ち味は変幻自在の幻惑投法。サイドやアンダー、クイックを織り交ぜながら、持ち球を消費していく。勢いづくPLの応援も甲子園の大歓声も聞こえないぐらい、肩をつくること一点に集中していた。

「箕島戦も鎮西戦も、前日に先発を伝えられたので、緊張していたと思うんですよ。でも、決勝はいきなりマウンドに行けと言われて、緊張する暇もなかったのが結果的によかったんじゃないでしょうか」

 無死一塁。3番・鈴木英之は左打席でバントの構えをしていた。1ボールからの2球目。アンダー気味に投じたスライダーをバントさせると、打球は転がらず、本塁前で止まった。捕手の中島彰一が矢のような送球で二塁封殺。試合前から降り続いた雨の影響で、本塁前に大量に入れられた砂が、柏葉を、取手ナインを救った。

「鈴木のバントがうますぎたんだと思います。打球が死んで、なおかつグラウンドがぬかるんでいるところで止まりました。中島のあんなスローイングも初めて見ました(笑)。あの夏、初戦の箕島戦も雨で、決勝も台風の影響から33分遅れで始まりました。取手二にとって、雨で始まって雨で終わった大会でした」

 つづく4番・清原の場面。6月の招待試合で2安打を許した借りを返したい気持ちもあったが、ライトの守備に就いていた石田と交代した。その石田が清原を三振、5番・桑田をサードゴロに仕留めピンチ脱出。そして延長10回、中島が3ランを放つなど4点を奪い、追いすがるPLにとどめを刺した。

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