【夏の甲子園2025】東洋大姫路・木本琉惺の「下剋上物語」 あきらめかけたレギュラーの座を8割バントの練習でつかんだ (2ページ目)
【チーム最多犠打で甲子園出場に貢献】
復調した木本は、3年夏の兵庫大会を背番号8で迎えた。そして、今までの鬱憤を晴らすかのように、快進撃を見せる。
木本が7試合で残した成績は、打率.423、0本塁打、2打点、2盗塁。そして犠打はチーム最多の7個を数えた。
あらためて、木本に聞いてみた。兵庫大会で放った11安打のうち、バント安打は何本あったのかと。すると、木本はニヤリと笑って、こう答えた。
「数えきれないくらいです」
初めての甲子園の舞台。幼少期から高校3年の春まで、スタンドしか入ったことがなかった。初めて踏みしめた聖地は、今までの景色とは違っていた。
「アルプス(スタンド)とは、全然違いました。『こんなに人が見えるんや』って。人が多くてビックリしました。歓声が気持ちよかったですね」
甲子園初打席、投前に犠打を決めた瞬間、木本は確信したという。
「今日は全部決まるな」
【パワーのないほうがヒットになる】
取材中、木本の現代の高校球児とは思えない細腕が目に入り、思わず「上半身のウエートトレーニングはしないのですか?」と聞いてしまった。すると、木本は意外な答えを返してきた。
「パワーがないほうが、逆にヒットになるんです」
どういう意味かわからず戸惑っていると、木本は助け船を出してくれた。
「パワーをつけたほうが打球は飛ぶと思うんですけど、自分の場合は今くらいの体のほうが、ちょうどヒットゾーンに打球が飛ぶので。筋トレは走力を落とさないように、下半身だけやっています」
この日、木本は2打席目に中前に落ちる安打を放っていた。だが、もし木本が上半身を鍛えていたら、飛距離が伸びて中飛になっていたかもしれない。少なくとも、木本はそう信じている。
5打席目には、訓練を重ねたセーフティーバントを成功させた。一塁にヘッドスライディングした木本は、塁上で土をはたきながら、もう次の塁を狙っていた。甲子園で戦っているあいだ、絶えず思いを秘めていた。
「アルプスには、ベンチ入りの最終候補になりながら外れた3年生がいっぱいいるので。適当なプレーなんてできません。常に集中していました」
2 / 3