【夏の甲子園2025】下級生にポジションを奪われた仙台育英の背番号15・今野琉成が明かす「日本一激しいチーム内競争」の舞台裏 (4ページ目)
「3年生の吉田瑞己、達冴介、山元一心はベンチには入れられませんでしたが、大きな伸びしろがあります。吉田は多彩な変化球を操って、社会人野球の投手みたいな投球ができる。最後に状態を崩してしまいましたが、線が細くて運動センスもあるので、大学で這い上がってくるはずです。
達は日本ハムの達孝太投手の弟ですが、本来はショートのレギュラーになっても不思議じゃない素材でした。本人が投手をやりたいという強い意志があって、なかなか出てこられませんでしたが、3年春になってようやく体ができてきました。今はすごい勢いで成長していますよ。
山元は公式戦でも投げていた投手で、ポテンシャルはすごいものがあります。140キロ台後半の球速をマークしたこともありましたが、夏までにパフォーマンスを安定して出せませんでした。内面的に大人になってくれば、大卒でのプロ入りも望める素材です」
1年生の砂は「ベンチに入れなかった上級生や仲間の思いも背負って戦っています」と胸の内を明かした。そして、今野はこんなエピソードを語ってくれた。
「この夏に入る前、須江先生から『自分にプレゼンしてこい』と言われたんです。そこで自分が伝えたのが、『今年に負けたら、引退のつもりです。3年生と同じ思いで戦います』ということでした。今もその思いは変わりません」
須江監督もまた、今野の熱い思いを感じ取っている。
「今野はチームで一番パッション(情熱)があります。声や仕草で周りに注意喚起ができて、チームのエラーを減らせる選手。高校生は安易に『執念』という言葉を使いますが、今野の野球に懸ける覚悟は本物です。将来的には『この選手がいてくれてよかった』と言ってもらえるような、周りに影響力を与える選手になっていくはずです」
酷暑の夏。仙台育英は初戦で川尻と田山が熱中症の症状を訴え、途中交代している。戦いが進むなかで、アクシデントはつきもの。そんな非常時こそ、「日本一激しいチーム内競争」が生きてくるはずだ。
知られざる守備職人・今野琉成は、自分の名前が呼ばれる瞬間に向けて、虎視眈々と準備を重ねていく。
著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。
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