【夏の甲子園2025】まさかの甲子園出場→大金星 東北学院4番でエース・伊東大夢はスマホを見て正気に戻った (4ページ目)
結局、試合は5対3で東北学院が勝利。試合後に取材を受けたあと、伊東は宿舎に戻るためにバスに乗り込んだ。
ふとスマートフォンを取り出すと、異常事態が起きたことを伊東は悟った。
通知が止まらない。家族、友人、関係者からの祝福の連絡が、次から次へと届く。ここで初めて、伊東は我に返ったという。
「ほかの人はわからないですけど、僕はずっと夢心地で野球をしていたんです。帰りのバスで通知が止まらなくなって、初めて正気に戻りました。自分たちなんて、ただ運がよくて甲子園に出たとしか思えないのに、とんでもないことをやっちゃったんだなって」
この年の甲子園はコロナ禍が終息する以前に開催されたこともあり、感染拡大を防ぐために入場規制が取られた。来場者は大会関係者、メディア、プロ球団スカウト、出場チームの応援団に限られ、甲子園球場のスタンドは一部のエリアを除いて空席が広がっていた。
この環境も東北学院の快挙につながったのかもしれないと、伊東は見ている。
「今にして思えば大観衆のなかで試合がしたかったですけど、5万近くもお客さんがいるなかでは正気じゃいられないですよね。東北学院の選手は緊張で朝食が食べられない選手や、試合前に吐いているような選手、野次に一喜一憂してしまう選手もたくさんいるので。僕たちからしたら、お客さんがいなかったことも、いい方向に作用したのかもしれません」
そして、正気に戻った伊東たちを待ち受けていたのは、過酷な現実だった。
つづく
著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。
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