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【夏の甲子園2025】まさかの甲子園出場→大金星 東北学院4番でエース・伊東大夢はスマホを見て正気に戻った (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 チームは尻上がりに主導権を握り、5対4で逆転。東北学院は決勝戦に進出する。対戦校は文武両道の公立校・仙台三。伊東にとっては、受験に失敗した第一志望校である。

「あのユニホームを着たかったな......という思いはありました」

 伊東はそんな本音を明かす。ただし、その頃には東北学院への嫌悪感もなくなっていた。男子校のノリにも慣れ、「気づいたら好きな学校になっていた」と伊東は笑う。

 決勝戦も2点を先取されるお決まりの展開だったが、チームとして取り組んできた打撃強化が結実する。5回表に伊東の2点適時二塁打など、一挙8得点を挙げて逆転。12対5で勝利した。

「外野の芝生席までお客さんがいっぱいいて、すごい経験だな......と思いながら試合をしていました。優勝が決まった瞬間は本当にうれしくて、キャッチャーの加藤(翔也)に抱きついてしまいました」

 それまで「甲子園」をリアルなものとして思い描けなかったのに、すんなりと喜べたのか。そう尋ねると、伊東はこんな内幕を暴露した。

「じつは、前日に加藤と勝ったあとの練習をしていました。やり方がわからないので、とりあえずマウンドに集まって、ふたりで抱き合って。周りからは笑われて、恥ずかしかったんですけど」

【甲子園初戦の相手は愛工大名電】

 春夏通じて初めての甲子園出場。エースで4番打者というわかりやすい中心選手だった伊東は、当然ながら注目を浴びた。伊東は「一生分の取材を受けたと思う」と苦笑する。そんな伊東に、渡辺徹監督が声をかけた。

「みんなの代表として、たまたまおまえが取材を受けるだけだから。勘違いするなよ」

 この言葉があったからこそ、伊東は平静を保っていられたのかもしれない。

 抽選会の結果、初戦の対戦相手は愛工大名電(愛知)に決まった。伊東の脳裏に浮かんだのは、「やりたくないな」というネガティブな感情だった。

「レベルが違いすぎるので。田村くん(俊介/現・広島)なんて、中学時代から雑誌に載っていたので知っていました。『明徳中の田村じゃん! なんで名電にいるの?』って驚きました。両親からは『全国放送だからシャキッとしなさいよ』と言われて。勝敗については、まったく触れられないんですよ」

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