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【夏の甲子園2025】まさかの甲子園出場→大金星 東北学院4番でエース・伊東大夢はスマホを見て正気に戻った (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 8月11日、東北学院は愛工大名電と激突する。だが、当時の記憶を尋ねても、伊東は急に口数が減ってしまうのだった。

「田村くんから1打席目にデッドボールを受けて、すごく痛かったんです。テーピングで肋骨をグルグル巻きにされて、すごく投げづらかったです。でも、とにかく試合中は無我夢中で......」

 そして、伊東は噛み締めるように言葉を絞り出した。

「僕にとって甲子園はテレビのなかの存在なんですよね。試合中はずっと夢心地のまま、必死でプレーしていました」

 序盤から制球の定まらない田村を攻め、東北学院は序盤からリードを奪う。5回までに5対1と優位な展開に持ち込んだ。

 第4試合ということもあり、空はみるみるうちに暗くなり、照明が点灯された。伊東はナイトゲームが楽しみでもあり、不安でもあったという。

「ウチはナイターになる前に練習が終わっちゃうので、照明が初体験なんです。だから『ボールが見えるのかな?』と思っていました」

 伊東は4打席目に寺嶋大希(現・NTT東日本)から左翼線に二塁打を放っている。だが、じつは打球の行方を見失っていたという。

「コーチャーは止めていたんですけど、僕はボールが見えなくて行っちゃったんです。あれは完全に結果オーライでしたね」

【止まらないスマホの通知】

 5対2で迎えた8回表。快調な投球を見せていた伊東は、打席に田村を迎えた。

 伊東が投じたのは、チェンジアップ。左打席で待ち構える田村が、バットを一閃する。その時の光景を伊東は今も鮮明に記憶している。

「打球が自分の左側を、今まで見たことのない角度で上がっていきました。これは嘘でもなんでもなく、『海まで飛んでいくんじゃないか』と思ったくらいです。あの放物線は忘れられないですね」

 田村のバックスクリーン右へのソロ本塁打が飛び出し、点差は縮まった。だが、「いつか打たれると思っていた」という無欲な伊東に、大きな動揺はなかった。

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