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【選抜高校野球】甲子園を席巻した浦和実の変則左腕・石戸颯汰 対戦相手が「レベルが違う」と唸った120キロ台の速球の秘密 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 そして、橋口は石戸の内面について、こう語っている。

「石戸はみんなが黙っていても、ひとりでも平気でずっとしゃべり続けているようなところがあって(笑)。試合前とか、強い相手でも、ひとりだけ緊張してないんです。あれはちょっとすごいなと思います」

【真価が問われる夏】

 3月28日、浦和実はセンバツ準決勝に臨んだ。相手は強打を誇る智辯和歌山である。

 智辯和歌山はある「石戸対策」を練っていた。1番打者の藤田一波が明かす。

「中谷(仁)監督が(石戸の)投げ方を真似してバッティングピッチャーをやってくれました。右投手と左投手の違いはありましたけど、感じはつかめました。監督の(真似の)完成度はけっこう高かったですよ」

 チーム全体では「淡白なフライアウトにならないよう、ライナーを徹底する」という方針が取られた。3番打者の山下晃平は「モーションに惑わされずに、リリースに集中するように言われました」と明かす。

 智辯和歌山は1回裏に3安打を集中させて2点を先取。さらに3回裏には5安打に浦和実の守備の乱れも絡み、3点を追加した。

 捕手の野本は「球の勢いは悪くなかった」と語りつつ、こんな実感を漏らしている。

「今日もよかったんですけど、前回、前々回のほうがよかった印象です。とくにコントロールが荒れてしまったので、強いチームになると通用しないんだなと思いました」

 とはいえ、4回以降もピンチを背負いながら、無失点に抑えた浦和実バッテリーの粘りは見事だった。

 この試合で4安打を放った智辯和歌山の藤田は、こんな感想を語っている。

「いい準備をしてきたので、しっかりととらえてチームに勢いをつけたかったんですけど、想像以上に石戸くんのボールが手元で来ていました。1打席目は差し込まれて、いい当たりではなかったんですけど、レフト前に落ちてラッキーでした」

 浦和実は0対5で敗れ、春の旋風は終わりを告げた。

 今や高校野球界で「石戸颯汰」の名前を知らない者はいないだろう。マークされる存在になってもなお、石戸は不思議なフライアウトを重ねることができるのか。

 花咲徳栄、浦和学院、昌平、西武台、山村学園、春日部共栄など、埼玉県内だけでも石戸を攻略すべく闘志を燃やすチームは多いはず。夏にかけて、石戸颯汰という投手の真価が問われる戦いが繰り広げられそうだ。

著者プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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