【選抜高校野球】甲子園を席巻した浦和実の変則左腕・石戸颯汰 対戦相手が「レベルが違う」と唸った120キロ台の速球の秘密
後ろで守っていて、「なんで打たれないんだろう?」と思うことはありますか?
恐る恐る尋ねると、浦和実の遊撃手を務める橋口拓真は苦笑を浮かべてこう答えた。
「それはすごく思っています」
浦和実の試合を見ながら、いくつもの疑問が浮かんでは頭のなかをぐるぐると渦を巻いていく。
浦和実のエース・石戸颯汰 photo by Ohtomo Yoshiyukiこの記事に関連する写真を見る なぜ、打たれないのか?
どうして、このフォームにたどり着いたのか?
これほど頭を振っているのに、なぜコントロールがつくのか?
アクションの大きな投げ方なのに、毎回しっかりと再現できるのはなぜ?
120キロ台の速球に、どうして打者が詰まらされるのか?
疑問が解消されないまま、マウンドの変則左腕は強打者たちを打ち取っていく。
【すごいフォームのヤツがいる】
浦和実のエース左腕・石戸颯汰は、今春のセンバツの話題をさらった。セットポジションから、右足のつま先を頭より高く上げる。上体をくの字に折って体重移動すると、再び頭を真っすぐに戻して、左腕を真上から振り下ろす。バックネット裏から見ると、体幹部がゆらゆらと波打つような動きをしたあとに、突然左腕が上から出てくる。初めて見た人は、誰もが度肝を抜かれるに違いない。
「入学して最初から、『すごいフォームのヤツがいるな......』と思いました」
遊撃手の橋口はそう証言する。
変則フォームに行き着いた理由は、「体が小さくて、力では抑えられないから」と石戸本人が明かしている。中学1年時には原型ができており、モデルになった選手はいないそうだ。
これだけ全身を大きく動かせば、同じ動きを再現するのは難しいのではないか。そんな疑問をぶつけると、石戸は屈託のない表情でこう答えた。
「いえ、練習していればできると思います」
もしかして打者を観察しながら、足を上げるスピードを変えるなど細工しているのではないか。フライを打ち上げる打者が多いため聞いてみたが、仮説はあっけなく打ち砕かれた。
「タイミングをずらすことはまったくしていません。同じフォームで投げています」
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著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。