共栄学園が甲子園出場を果たした背景にある「画期的練習法」 専用グラウンドがなくても大丈夫 (4ページ目)
【甲子園初出場後の変化は?】
共栄学園は今夏の甲子園に地元出身者中心で臨んだように、基本的に下町の野球少年がほとんどで、いわゆる野球エリートはやって来ない。前年まで都大会の最高成績はベスト8で、それくらいを視野に野球に取り組みたい選手が中心だ。
今回、甲子園に出場したことで中学生からの問い合わせは増えたが、遠征に出かけるバスの座席の都合があって、1学年20人と定員を決めている。
学校が甲子園出場を祝い、グラウンドを建設する計画もない。都内でグラウンドを新設するには、億の単位をゆうに超える資金が必要になる。過去には甲子園出場で多額の寄付金が集まった例もあるが、初出場の共栄学園にはそのノウハウが十分ではなかった。余剰金で練習場を新設するなど、夢のような話である。
つまり、ないものねだりではなく、これからもあるものを生かして戦っていく。昨年秋に見直した強化策が、今後も基本線になっていくわけだ。そうして自分たちならではの方法を見つけたことこそが、今夏の最大の成果だった。原田監督が言う。
「昨秋に食事やトレーニングから始めて、今夏の大会が終わって初めて思ったのが、日々の積み重ねの力は本当にすごいということです。毎週金曜に体重を測り、授業の合間にプロテインを飲む。日誌も書かせてきました。読む側のこっちも大変に感じる時は正直ありましたけど、やってきてよかったです。積み重ねの力、本当にすごいなと」
専用グラウンドを持たない共栄学園がトレーニングを徹底し、初めて東東京を制した。甲子園から帰ってきて、その取り組みをさらにアップデートさせている。
現代野球で上を目指すためには、フィジカルの強化は不可欠だ。その方法論はさまざまあるなか、共栄学園のように振り切った発想で一定以上の正解が出たら、日本球界のスタンダードが変わっていく可能性を秘めている。
ミラクル共栄──。
大きな一歩を踏み出した今夏を始まりに、何を積み重ねていくのか。その軌跡を、引き続き注視していきたい。
著者プロフィール
中島大輔 (なかじま・だいすけ)
2005年から英国で4年間、当時セルティックの中村俊輔を密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『山本由伸 常識を変える投球術』。『中南米野球はなぜ強いのか』で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。内海哲也『プライド 史上4人目、連続最多勝左腕のマウンド人生』では構成を担当。
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