PL学園と帝京の名将が振り返る直接対決 中村順司「帝京はPLの弱点を狙わなかった」 前田三夫「やったところで勝てる相手じゃない、真っ向勝負ですよ」 (3ページ目)

  • 藤井利香●取材・文 text by Fujii Rika
  • 村上庄吾●撮影 photo by Murakami Shogo

●芝草対策が奏功してPLが完勝

中村 センバツで帝京とは力の差は感じなかったですよ。いい試合でしたし、さすが関東の勢いのあるチームだなと。関東のチームって、やはり大学野球にしてもプロ野球にしても強くてお手本になるチームがたくさんあるじゃないですか。

 その点、関西はどうしても限られたチームしかない。そういうハンデは常々感じていたんです。帝京は洗練されたチーム。そしてまた、夏の甲子園で対戦するんですよね。

前田 準決勝でしたね。選手も私も再戦が叶い、今度こその気持ちでした。ただぶつかってわかったのは、春の時よりPLは数段強くなっていたということ。またも初回にホームランを打たれ、これは立浪(和義)君でしたね。打った瞬間にわかるいいホームランでした。

 芝草は2回戦の東北戦でノーヒットノーランをやってのけ、夏は私なりに互角に戦えると思っていたのですが甘かったですね。

中村 芝草君対策として試合前に指示したのは、(打順の)偶数の選手はストレートを、奇数はカーブを狙え。それで、3番の立浪がホームランを打ったんです。沈むような変化球だったと思いますが、カーブの典型的な打ち方で完璧にとらえました。

PL学園時代、甲子園で校歌を歌う中村氏 写真提供/中村順司PL学園時代、甲子園で校歌を歌う中村氏 写真提供/中村順司この記事に関連する写真を見る前田 奇数、偶数の打順の話、あとから聞いて目を丸くしましたよ。そりゃそうだ、直球と変化球しかないんだからって(笑)。芝草はフォークが決め球だったんですが、出鼻をくじかれて監督としてもショックは大きかったです。

 しかも、4回表で8点差をつけられてしまったでしょう。4回裏に4連打で2点返すなど、帝京も最終的にヒットは計10本打っているけど、前半で勝負が決まってしまったので打ったという感じは全然しなかったですね。接戦に持ち込めたら勝機はあると考えていたのに、とんでもない。中村さん、さすがにこの大会は自信あったんじゃないですか。

中村 春よりはね。でも優勝しようとかは、私は一度も口にしていませんよ。選手たちの間では、先輩たちができなかった連覇をめざそうと言い合ってはいましたけどね。野球というのはいつ何時何が起こるかわからない。だから最後の最後まで気をゆるめない。やっぱり監督として、これでもう大丈夫だっていうのはないじゃないですか。

 それにこの試合では、サードの深瀬が右肩を脱臼して一塁に回っていたでしょう。左で捕って左で投げていたんですが、バントで狙われてもおかしくなかったところ、前田さんはそれをしなかった。

前田 やったところで勝てる相手じゃない、真っ向勝負ですよ。そのうえで、力の差を見せつけられたと。上には上がいると痛感しましたね。それで僕らが試合を終えて宿舎に戻っていた時かな、第2試合で勝ってPLとの決勝に進んだ常総学院の木内幸男監督のインタビューが耳に入ってきましてね。

「明日の決勝はどんな戦いをしますか?」ってアナウンサーが質問したら、「はい、準優勝を狙います」だって。こちらは負けてしょんぼりとしてたけど、思わず笑ってしまいましたよ。木内さんらしいな、と。

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