高校球界を席巻する「佐々木朗希フォーム」の明と暗 日大山形のエース・菅井颯は球速11キロアップしたが... (2ページ目)
だが、絶好のアピールの舞台になるはずだった甲子園で待っていたのは、過酷な現実だった。8月8日、おかやま山陽との初戦に先発した菅井は、12安打を浴びて8失点(自責点5)。6回持たずにノックアウトされた。
この日の投球には、朗希フォームの難しさが表れていた。
菅井に「今日は指にかかったボールは何球くらいありましたか?」と聞くと、「10球くらい」という答えが返ってきた。
「ブルペンではよかったんですけど、試合のマウンドになると下半身がふわふわしていて。いつもは下半身が使えていれば試合後に筋肉が張るんですけど、今は全然張っていないので。それがすべてかなと思います」
体をダイナミックに使うがゆえに、1球1球リリースのタイミングを合わせるのが難しい。いわゆる「再現性」に難があるのだ。捕手の高橋直叶(なおと)にも聞いてみたが、「いい時はリリースのズレはないんですけど、今日は本調子じゃなくてズレがありました」と証言した。
【警察官の夢を捨て、目標はプロ】
試合後、菅井に今後の進路について聞くと、「まだ力不足なので、まずは大学へ行ってからプロを目指します」という意向を語った。
じつは大会のアンケートでは、「将来の夢」の項目に「警察官」と書いていた。
「もともと小学生の頃からの夢だったので。でも、今日負けたことで『野球で生きていきたい』と思いました。警察官の夢を捨てて、プロ野球選手になるために大学で足りないところを補えるように練習したいです」
リリースのタイミングがハマったボールは、間違いなくプロを意識できるだけのエネルギーがある。菅井が朗希フォームを究めていくのか、それとも新たな感覚を見つけるのか、今後も見守りたい。
今大会はほかにも、足の上げ方をダイナミックにしたことで急成長した森煌誠(徳島商)や、佐々木朗希に似たフォルムとモーションで投げ下ろす2年生右腕・清水大暉(前橋商)など「朗希」のムードが滲み出る投手が見られた。
これからも佐々木がプロ球界で無双ぶりを見せ続ければ、佐々木に憧れる「朗希フォーム」の高校球児はあとを絶たないだろう。
著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。
佐々木麟太郎、前田悠伍から隠し玉まで...2023年のドラフト候補たち
2 / 2