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灘高出身「野球ヲタ」が京大野球部で画期的な取り組み 投手コーチ就任でチームを優勝争いへと導いた (3ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 三原は基本的に「早め早めの継投」を心がけていると語った。

「ウチで一番重要な場面で投げることが多いのは水江なので、とくに水江の疲労や『投げ切れているか?』はしっかり見ています。それ以外の場合はピッチャーとキャッチャーの両方に意見を聞いたうえで、替えることが多いですね」

 入部当初の三原は、野球部の同期から「クソ陰キャ」と陰口を叩かれるほど体育会の部員らしからぬ風貌だった。浪人生活の影響でやや太っており、メガネをかけ、黒髪でいかにも大人しそうな顔つき。フリースにジーンズといかにも大学生の私服姿という出で立ちでグラウンドに現れ、ひと目で運動用ではないとわかるカラフルなスニーカーを履いていた。

 そんな三原が入部した理由は、同年から京大野球部が「アナリスト」を募集したからである。簡易型弾道測定器のラプソードを購入したものの、部内には扱える人材がいなかったのだ。

 三原はプレー経験こそないが、幼少期から阪神ファンでプロ野球に熱中する「野球ヲタ」だった。高校時代からMLBのデータサイトに入り浸っていたため、ラプソードで取得できるデータの知識はすでに得ていた。

 ラプソードのデータを元に、三原が投手陣にアドバイスを送る。その効果は大きかったと近田は見ている。

「京大生は数字が大好きだし、データに興味を持って取り組むと彼らの特性を生かせるのかもしれません。自分も三原の意見を聞いて、吸収しないといけないなと思いました」

 2022年の春、京大野球部は優勝争いに絡む快進撃を見せる。

 個性派が揃ったのは投手陣だけではない。野手陣もひとクセもふたクセもある奇人・変人がひしめいた。とくに中軸を任された伊藤伶真(りょうま)の存在は異彩を放っていた。

 打撃フォーム、捕球体勢、ルーティン、ユニホームの着こなしと、すべてが独自の感性やこだわりで占められている。身長168センチ、体重76キロと小柄な体型ながら、強豪大学からマークされるほどの高い打撃力を誇っていた。

 そして、伊藤は大学3年時には野球部での活動と並行して年間2200時間の猛勉強の末に、公認会計士の資格試験に合格している。感覚が特殊すぎるため、「誰からもアドバイスをもらえない」のが悩みの種だという。

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