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灘高出身「野球ヲタ」が京大野球部で画期的な取り組み 投手コーチ就任でチームを優勝争いへと導いた (2ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 戦績だけを見れば、京大にとっては圧倒的な負の歴史がある。近田が2017年にコーチに就任するまで、関西学生リーグ70季中67季でリーグ6位。実に95.7パーセントの「最下位率」である。

 同リーグを戦う近畿大、立命館大、同志社大、関西大、関西学院大はいずれも優勝経験があり、1学年あたり20人のスポーツ推薦枠がある近大を筆頭に有望選手が集まりやすい環境がある。

 一方の京大はスポーツ推薦がないどころか、入試を突破すること自体が極めて高いハードルになっている。野球部に集まるのは高校時代の実績がほとんどない進学校の選手に限られ、半分以上は浪人経験者である。雨が降ればその日の練習が中止になってしまうなど、環境面も恵まれているとは言いがたい。

 他大学にとっては、「京大に勝って当たり前」という感覚があるのではないか。そう予想していた私だが、対戦校を取材するなかで意外な言葉を聞くことになった。

 たとえば昨年の同志社大のエース右腕・高橋佑輔(現・東邦ガス)は、語調を強めてこう語っていた。

「『京大に勝って当たり前』なんて言ってる人は、野球がわかってない人ですよ。京大の試合内容を見れば、『いい野球をしてる』とすぐわかるはずです」

 圧倒的な戦力を擁しながら京大相手にしばしば苦杯をなめている近畿大監督の田中秀昌は、警戒感を隠さない。

「京大のベンチには紙にプリントしたデータが20枚くらいバーッと貼られていて、『すごい分析されてるんだろうな』と感じていました。選手も執念深くて、集中力がある。最後まであきらめないので、イヤなチームやなと感じていました」

【個性豊かな秀才軍団が優勝争い】

 とくに2022年の投手陣は強力だった。エース右腕の水江日々生(みずえ・ひびき/当時3年)は小柄ながら総合力が高く、ゲームメイク能力抜群。4年生には身長194センチ、体重100キロの超大型右腕の水口創太(現・ソフトバンク)や、左腕から独特のクセ球を操る牧野斗威(とうい)、好球質のストレートとツーシームのコンビネーションを武器にする徳田聡と強豪相手に通用する人材がひしめいた。さらに正捕手の愛澤祐亮は、時にアンダースローの投手としてマウンドに上がる「二刀流」。そんなバラエティーに富んだ顔ぶれをマネジメントしていたのが、学生コーチの三原なのだ。

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