メジャーを目指す和製イム・チャンヨン 名城大・松本凌人は無念の代表落選も前を向く (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 手首が寝るクセは、無意識のうちにストレートにも影響を及ぼした。サイドハンドといっても、松本はリリース時に手首を立てることで力強いボールを投げてきた。シンカーにつられるようにストレート投球時も手首がわずかに寝るようになり、松本本来のボールが失われていた。

【こだわりはすべて捨てた】

 松本にとってシンカーは是が非でもマスターしたい球種だった。コロナ禍で実施できなかった強化合宿を含めると、松本が大学3年間で大学代表候補合宿に招集されたのは3回。だが、候補には挙がっても、代表に入ることは一度もなかった。「国際大会では落ちる系の変化球が有効」と考える首脳陣の構想に、スライダー系の球種を得意とする松本はマッチしなかったのだ。

 だが、松本は落選を前向きに受け止めていた。

「自分はプロ野球へ行って、メジャーに行きたいんです。それなら落ちるボールを覚えるのはもうひとつ上に行くため、自分のためにもなります」

 悪戦苦闘の末、春のシーズン終盤にようやくシンカーの感覚をつかんだ。

「手首を立てて、真下に落とすイメージで投げたら結果的にシンカーの方向に落ちるようになりました。ストレートもスライダーも軌道をイメージして投げますけど、シンカーだけはリリースの形をイメージするようにしました」

 手首が寝てしまう悪癖が改善され、ストレートへの悪影響も解消された。

 シーズン終了後も松本は休まずトレーニングを続け、合宿参加のために準備をしてきたという。そして、特徴的だった投球フォームにもメスを入れた。

 従来の松本は捕手と正対して立ち、上体のみをひねってから左足を上げる変則的な始動だった。菅野智之(巨人)の以前までの始動をイメージするとわかりやすいだろう。この変則モーションから、通常のセットポジションに変えたのだ。

 松本は言う。

「こだわりはすべて捨てました。何か行動を起こさないと変わらないと思ったので。それに、人間の体は変わっていくので、今の自分に合ったフォームで投げることが大事だと思いました」

 セットポジションからクイックモーションで投げるようにすると、リリースのタイミングが合うようになった。今ではストレートも変化球も思うようにコントロールできるようになっている。

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