辻内崇伸、中田翔、藤浪晋太郎、根尾昂...名だたる怪物を輩出してきた大阪桐蔭で前田悠伍は史上最高の投手か? (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 ところが、圧巻の投球で大阪大会を締めた前田だったが、さらなる成長を期待した近畿大会で予想外の事態が起きた。

 初戦の神戸国際大付戦。ここで10日あまり前とはまったく別人の投球を見せたのだ。序盤からストレートの迫力、球速ともに物足りなかったが、7回以降の3イニングはストレートが極端に減り、135キロを超えた球はわずか1球だけ。変化球を多投し、なんとか8回の1失点だけでしのいだが、明らかにいつもの前田ではなかった。

 試合後、本人はいつもとさほど変わらない調子で、その理由について語った。

「前半から速い球にタイミングを合わされていたので、後半になるにつれて抜いた球で勝負しようと思って。(ギアを)上げる回と落とす回を考えながら、全力では投げていません。5割から6割くらいです」

 つづく準々決勝の彦根総合戦も「らしくない」ピッチングだった。立ち上がりから連打を浴び先制されると、そこからボールが荒れ、本人曰く「過去に経験がない」という3連続四球。うち2つが押し出しとなり、初回にまさかの4失点。この回だけでじつに37球を投げた。

 4回からは完全にスピードを抑え、以降は1安打ピッチング。この試合後も、前田は報道陣に囲まれながらこう語った。

「マウンドがちょっと合わないのはあったんですけど、そこは言い訳になるので......準備が足りなかったです」

「真っすぐ系のボールが合わされている感じがあったので、そこに早く気づいておけばこんなに点数は入らなかった。バッテリーの課題です」

「自分のボールを投げられなくて、カッカして気持ちを冷静に保てなかった。これも今日の課題です」

わずか5日できっちり修正

 どれも一理あるだろうが、納得できない部分もある。もしこれが不調の理由だとすれば、「そのレベルの投手か?」と......。

 ベスト4となり、来春行なわれるセンバツ大会への出場が有力となった。そのため、この2戦の状態、投球内容から準決勝、決勝の登板はないと見ていた。ところが、決勝の報徳学園戦のマウンドを託されたのは前田だった。そして、それまで大阪桐蔭をしのぐといっていい強打を誇っていた報徳打線を3安打、9奪三振で1対0の完封勝利。準々決勝からわずか5日できっちり修正してみせたのだ。

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