甲子園優勝にも「達成感はまったくない」。仙台育英・須江航監督が考える「高校野球における監督の役割」とは?

  • 栗田シメイ●取材・文・撮影 text & photo by Kurita Shimei

仙台育英・須江航監督インタビュー

 今夏の甲子園で初優勝を飾り、東北勢の悲願であった深紅の大優勝旗の「白河の関越え」を果たした仙台育英。指揮を取る須江航(39歳)は就任5年目にして、先人たちが実に12度も跳ね返されてきた高い壁を打ち破ってみせた。

今夏の甲子園で優勝した仙台育英の須江監督今夏の甲子園で優勝した仙台育英の須江監督この記事に関連する写真を見る 甲子園では最速140km超の投手5人による緻密な継投策、攻守で完成度の高い野球を披露し、新時代の到来すら感じさせた。新チームに切り替わった秋季東北大会でも優勝し、本日18日に開幕した明治神宮大会でも高い注目を集めている。

 新チームの現状、監督としての野球観や継投術、そして高校野球の監督としてのあり方まで、須江の言葉に耳を傾けた――。

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――甲子園優勝から準備期間が圧倒的に短かったなか、東北大会では見事優勝を果たしました。初めての経験の中で、チームづくりの難しさを感じたことは?

須江航:(以下・須江)「夏が終わってから実質的には2週間程度。正直に言うと、まったく時間が足りなかったですね。現段階でのチームの強みは、やはり投手陣を含めたディフェンス力。短い時間でできることを突き詰めようということでした。

 宮城大会で東北高校さんに力負け(9月26日の試合で1-2)して、あの敗戦でチームが引き締まり、本当の意味でのスタートを切れたと思います。毎試合が接戦で、本当に東北のレベルは年々高まっている。簡単な試合はひとつもなかったです」

――新チームでは、夏の優勝を知る髙橋煌稀、仁田陽翔、湯田統真くんの3投手、キャッチャー、ショート、センター、4番と主軸の多くが残り、自ずと期待値も高まりますね。その反面、マークも厳しくなります。

須江:「(甲子園を優勝した)去年のチームに食い込んでいたメンバーが多いですから、『勝って当たり前』と見られている面は確かにあります。"最強世代"なんていう方も中にはいました。新チームになった時、おそらく選手たちの中にもそんな意識が潜在的にあった。ただし、高校野球はそんなに甘くない。夏は3年生がチームに足りないところをうまく補ってくれていたことが大きかったので。

 新チームの最初の練習試合で、八戸学院光星さんと8対8で引き分けたんです。その際に私が選手たちに『(今のチームは)そんなに強くないでしょ?』と言うと、4番の齋藤陽が「全然強くなかったです」と言っていました(笑)。あの始動戦の引き分けは、チームの意識を変える意味で本当にいい入り方だったと思います」

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