2022.05.20

「東大野球部を勝たせてみろ」、恩師の言葉に「はい」。64連敗ストップの立役者、松岡泰希捕手の武器は”記憶力”

  • 宮部保範●取材・文 text by Miyabe Yasunori

文武両道の裏側 第9回
松岡泰希(東京大学野球部) 前編

東京大学野球部で主将としてチームを引っ張る松岡泰希捕手東京大学野球部で主将としてチームを引っ張る松岡泰希捕手 この記事に関連する写真を見る
 2022年4月9日、季節外れの暑さのなか、東京六大学野球の春季リーグが開幕した。東京大学3塁側ベンチ前、開幕戦にのぞむ円陣の中心に背番号10が見えた。創部100余年を誇る東大野球部の主将を務める、松岡泰希捕手(教育学部4年・東京都市大学付属高)の背中だった。眼差しはサングラス越しにも鋭く、チームメイトのほうへ向けられていた。

 昨年、連敗を64で止め、春季・秋季ともにひとつの勝ち星をあげた東大。連敗ストップの法政大学戦で先制のタイムリー安打を放ったのが、松岡捕手だった。

 そんな東大が今年の戦いにかける思いは強い。

 開幕戦の相手は、昨年の春季・秋季リーグ戦で優勝した慶応義塾大学。先攻の東大は、初戦の硬さからか守備の乱れた慶大の隙をつき、1回に2点、つづく2回にも1点を取り、中盤まで試合の主導権を握っていた。5回裏に同点に追いつかれたものの、好投していた井澤駿介投手(4年、札幌南高)が4回、バットでも魅せた。東大として2年ぶりとなるホームランをレフトスタンドに放ち、再びリードを奪ったのだ。

 しかし、制球に苦しみ球数の多かった井澤は、6回裏、1人目のランナーを許したところで降板した。マウンドを引き継いだ投手陣が粘り、松岡捕手の2盗捕殺をはじめとする野手の好守もあって、試合は東大リードで7回表まで進んだ。

「おい、このまま勝っちゃったら、どうなるんだ?」。3塁側の東大応援席は、好守のたびにどよめいていた。

 しかし、その裏、そこまで保ってきた好守と粘りが、まるで音を立てるかのように崩れた。スタンドが抱きはじめた不安がグラウンドに伝わったはずもなかろうが、四球と守備の乱れでランナーがたまり、ホームランで逆転された。

 慶應の逆襲は長かった。が、あっけなく勝負の行方が決まってしまう一瞬の出来事でもあった。

 東大は春季リーグ10試合を終えて、8敗2分。はたして、残り2試合で勝利を挙げることはできるのだろうかーー。

 甲子園経験者やプロ野球からドラフトにかかる強者を擁するチームに、いかにして勝つのか。東大は今年、どのように六大学野球を戦っていくのか。文武両道のさらに先をゆく集団、東大野球部の松岡主将に聞いた。

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名だたる進学校出身の野球部員たち

ーー多くのプロ野球選手を輩出している六大学野球でプレーするとなると、相応の力量がいるかと思います。しかし、東大には野球での推薦や付属校からの選手がいない。チームがどんな選手で構成されているのかがピンときません。東大野球部には、いったいどのような選手がいるのでしょうか?

松岡泰希(以下、松岡)
 野球部全体では部員が120人ほどで、ひと学年に30名前後です。出身高校は、やはり東京近郊の学校が多いですが、全国各地の進学校で野球をやってきたという選手も数多くいます。

 今のチームには、静岡高だったり、東筑高(福岡県)出身で甲子園の土を踏んでいるメンバーもいます。ですがやはり、いわゆる都内の進学校、開成高だったり筑波大附属高の選手が多いです。

ーー開成高や筑波大附属高出身で、六大学のレギュラーになる選手もいらっしゃるのですか?

松岡 はい。たとえば、開成高だと、野球部の練習は週1日と限られているそうで、高校時代には野球中心の生活はしていない。でも、年によっては都大会で2、3回勝っています。僕の学年には、宮﨑湧って選手がいるんですけど、彼は開成でも「1000年に一度の逸材」と言われたような選手で、もちろん今はレギュラーで活躍しています。

ーーさきほど校名の挙がっていた静岡高や東筑高で甲子園経験を積んできた選手はスタメンですか?

松岡 そうですね。やっぱりスタメンに名を連ねる選手は、それなりの場数を踏んでやってきているというか。上からの言い方になってしまいますが、みんな上手です。他の大学へ行っても、レギュラーに入ることができるんじゃないかなと思います。