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松坂大輔の「伝説の決勝戦」で2四球。
今も忘れない平成の怪物の記憶 (2ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Inoue Kota

 当然、田坪たち京都成章も横浜、松坂との対戦を意識していたのだろうと思っていたが、実状は少々異なっていた。

「いや、もう全然です。横浜を意識できるほど、自分たちに力があるとすら思っていませんでした。正直、夏も甲子園に戻って来られるかもわからなかったですし」

 春のセンバツは京都成章だけでなく、京都西(現・京都外大西)も同時出場。前年夏の甲子園準優勝を経験したメンバーが残る平安(現・龍谷大平安)にも力があり、「京都成章1強」の状況ではなかった。

 それでもしぶとく京都大会を勝ち上がると、甲子園でも快進撃を続けていく。初戦は仙台(宮城)を10-7で下すと、2回戦では当時急速に力をつけていた如水館(広島)を5-3で退けた。

 地方大会、甲子園を勝ち進むなかで、田坪たち京都成章ナインには、ある感覚が生まれていった。

「県大会だけでなく甲子園の序盤も含めて苦しい展開の試合が多かった。そこを勝ち抜いていくなかで、『勝てる気はしないけど、不思議と負ける気もしないな』と感じはじめていました。意識も『とにかく勝とう!』というよりも、各々のやるべきことをやろうという感じ。それがよかったのかなとも思いますね」

 その不思議な感覚はその後も続いていく。準決勝では主砲・古木克明(元横浜ベイスターズほか)を擁する豊田大谷(愛知)を相手に6-1。とうとう決勝進出を果たし、絶対王者・横浜と対戦することになった。

 前日に映像で松坂を研究したが、チーム全体での狙い球は決めず、各自で球種、コースを絞る形をとった。そのなかで田坪は「低めの真っすぐ」の見極めをテーマに置いた。

 第1打席で目の当たりにした松坂の直球をこう振り返る。

「『ワンバンかな?』と思った真っすぐが真ん中付近にくる。ひと目でもすごさは伝わってきましたね」

 平成の怪物が投じる快速球に圧倒されたが、戦意は失わなかった。頭に浮かんだのは「打てない気もしないな」という、「不思議と負ける気もしない」に似た感情だった。

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