エースを際立たす「最遅」効果。
習志野の17番は緩急に活路を見出す
甲子園のスコアボードには、投手が1球を投げるたびに球速が表示される。さすがに150キロが出たときにはため息と歓声が混ざったような声が上がるが、近年は、甲子園に登場する投手の球速が上がっており、140キロ後半ではもう観客は驚かない。
習志野(千葉)と市立和歌山(和歌山)との準々決勝第1試合では、こんな数字が次々に表示された。
94、92、94、109、92、104、96、107、94、102、95、95、106......。
念のために書いておくが、単位は「キロ」である。メジャーリーグ中継で見られる「マイル」ではない。
習志野の先発投手を務めた背番号17、岩沢知幸(3年)は身長173センチ、体重63キロ。選手名鑑によれば、50メートル走は6秒9。遠投は85メートル。どこから見ても甲子園出場の選手としては普通の高校生だ。
2戦連続で先発のマウンドに立った習志野の岩沢 だが、プロ注目の奥川恭伸(3年)を擁する星稜との2回戦でも、先発マウンドに上がったのは、この岩沢だった。1回3分の2を投げて1失点だったものの、0-1でエースの飯塚脩人(3年)につなぎ、飯塚が7回3分の1を3安打無失点(投球数は96)に抑えて逆転勝ちを呼び込んだ。
もともと右の上手投げだった岩沢がアンダースローに転向したのは中学2年生の秋。思うような成績を残せない岩沢を見かねた当時の監督からの指示だった。
腕を下げアンダースローにフォーム改造するにあたって、参考にしたのは元千葉ロッテマリーンズの渡辺俊介だった。しかし、渡辺ほどリリースポイントが低いわけではない。球種はストレートとカーブの2種類。ストレートの最速は116キロだ。おそらく、今大会、「最遅」の先発投手だろう。
準々決勝で先発のマウンドを任された岩沢は、市立和歌山の一番打者・山野雄也(3年)をセカンドゴロに打ち取ったものの、二番から4連打を浴び3失点。後続をなんとか切ったが、1回表にもらった1点のリードをすぐに吐き出してしまった。
「前の試合に比べれば緊張はなかったんですが、初回につかまってしまって、チームに迷惑をかけて申し訳ないという気持ちでいっぱいです」と岩沢は語った。
しかし、2回から登板した背番号1の飯塚が好投。8回を投げ、4安打、9奪三振で失点はゼロ。113球という省エネ投球で準決勝進出を決めた。
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