甲子園よりも大切なこと。胸熱くなる高校球児たちの「それぞれの夏物語」 (5ページ目)

  • 高木遊●文・写真 text & photo by Takagi Yu

■不祥事で揺れた夏。気丈に振る舞った主将の心意気

 開会式前日に不祥事が発覚し大きく揺れた拓大紅陵(千葉)を、最後まで牽引したのが主将の度会基輝(わたらい・もとき)だった。

 父は1990年代から2000年代にかけてのヤクルト黄金期をスーパーサブとして支えた度会博文氏(現・球団広報)。

高校通算30本塁打のスラッガーでもある拓大紅陵の主将・度会基輝高校通算30本塁打のスラッガーでもある拓大紅陵の主将・度会基輝 ムードメーカーとしても愛された父譲りの明るい性格で、2004年の春から甲子園に遠ざかっているチームを復活させようと先頭に立って引っ張ってきた。大会前には「もっと練習していたいくらい」と笑顔で語り、指導者たちも「悩みもあるでしょうが、表に出さずやってくれている」と目を細めていた。

 だが、開会式前日に元部員3人がSNSなどを利用した売春斡旋容疑で逮捕されると、風向きは一気に変わった。飲酒や喫煙のように「他の部員が見て見ぬふりをしていた」という部員全体の連帯性はなく、近年の事例をみても出場は妥当とも思えたが、ネットなどで激しいバッシングが起こり、当然、選手の目や耳にも届いていただろう。

 大会中、主将を務める度会にも不祥事に関する質問が飛んだ。それでも誠実に対応し、ひたむきに甲子園出場を目指す息子の姿を見て、母の祥子さんは涙することもあったという。だが「親が気持ちで負けてはいけない」と、スタンドで声を枯らして応援し、度会も下を向くことなく初戦から活躍を続けた。

 3回戦まで全試合で2打点以上を挙げる活躍をみせた。4回戦で、のちに準優勝を果たす習志野に延長11回の末に敗れたが、整列後のあいさつまで気丈に振舞った。

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