甲子園は「夢」から「目標」へ。都立高校野球部が強くなった理由 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 共同通信社●写真 photo by Kyodo News

 都立高がレベルアップした背景として欠かせない存在なのが、「高校野球研究会」だ。30年以上前に都立高のレベルアップを目指して、当時、大島高校の監督を務めていた樋口秀司さん(故人)と、世田谷工業(現・総合工科)の監督を長らく務めた長嶺功さんらが中心となって指導者向けの交流会を立ち上げた。現在は私学や他県の指導者も参加するようになっている。途中から高校野球研究会のメンバーになった有馬監督は言う。

「講習会の後に飲み会があって、そこでいろんな人に野球のことを教わりましたよ。高校野球研究会のメンバーと合同練習をすることもあります。城東は他の運動部との兼ね合いがあって、グラウンドが使えないことが多かったんです。それでも、練習試合の相手には事欠かなかったですからね」

 この高校野球研究会によって、都立高の指導者間で強固な結びつきが生まれた。「ライバル」というよりも、切磋琢磨する「同志」という感覚に近いだろう。江戸川高校監督時代に東東京ベスト4に導くなど、都立高の名監督として知られた福嶋正信監督が、小山台の監督としてセンバツに出場した際、有馬監督は「高校野球研究会の仲間として、本気でうれしかった」という。

 そして、2004年度からは「文化・スポーツ等特別推薦」という制度ができ、都立高でもスポーツ推薦によって有望な中学生を確保できるようになった。現在は都立高の野球部49校がこの制度を活用し、総合工科はその中で最大の10名の枠を持っている。

「ウチは面接点や中学の成績などの調査書点、反復横跳びやシャトルランなど運動能力の実技点で評価しています。でも、夏の練習会で見て『いい選手だな』と思っても、『取ります』と確約はできないルールなんです。だから入試の前に私学から声が掛かって、そちらに行ってしまうというケースもありますね」(有馬監督)

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