甲子園は「夢」から「目標」へ。都立高校野球部が強くなった理由 (5ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 共同通信社●写真 photo by Kyodo News

 依然、トップレベルの私学の壁は高いものの、もはや都立高が上位進出することは珍しい時代ではなくなった。だが、すでに近い将来を見越して「都立高の危機」について警鐘を鳴らす人物もいる。ほかならぬ有馬監督だ。

「あと5、6年もすれば、我々世代の監督が定年でごっそり抜けるでしょう。となると、次の世代がどうか……というと、あまり育っていない。本気で甲子園を狙っている、情熱を持った若者が見当たらないんです」

 有馬監督は「これはぜひ書いてください」と前置きした上で、若手指導者に向けて厳しい言葉を続けた。

「僕なんかは生意気な指導者でしたけど、上の人たちにガンガンぶつかって、いろんな人たちに育ててもらいました。創価の近藤省三監督には練習試合をお願いして、0対38で負けたこともあります。『チクショー!』とまたお願いしても、近藤監督は受けてくれました。他にも国士舘の永田昌弘監督とか、岩倉の磯口洋成監督とか、みんな退任されていますけど、私学の先生は心が広くて、教えてもらいに行けば何でも教えてくれました。

僕だって、来たら何でも教えますよ。でも、今の若い指導者は誰もぶつかってきません。高校野球研究会なんか来ても、飲み会には出ずにすぐ帰ってしまう。私学には聖パウロ学園の勝俣秀仁監督とか、どんどん次の世代が出てきていますよ。『かかってこいや! いつでも切磋琢磨しよう』と言いたいです。確かに仕事が煩雑で忙し過ぎることはわかります。でも、僕らも上の人たちが情熱を理解してくれ、本当に寛容に育ててもらいました。今度は僕らが若い人たちの情熱を理解して、応援する番だと思っています」

 名将・有馬信夫の魂の咆哮(ほうこう)は若い世代の指導者に届くのか。多くの先人たちによって築かれてきた「財産」が次の世代へと受け継がれるかどうかに、今後の都立勢の命運がかかっているのかもしれない。

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