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【高校野球】早鞆高校・大越基監督――技術より人間力でつかんだ甲子園 (2ページ目)

  • 田尻耕太郎●文・写真 text&photo by Tajiri Kotaro

 元プロ野球選手である大越監督が、日本野球界の最高峰の世界で11年間も戦い抜いたエキスを選手たちに注いだ結果なのだろうと思ってしまいがちだが、大越監督は苦笑しながら首を横に振った。

「全く違いますね。プロ野球で培ったものを、高校生に指導してもちんぷんかんぷんですよ。混乱させてしまうだけです。特にバッティングなどは木のバットと金属バットでは使い方もまるで違う。高校野球の指導において『元プロ』は活きないと思います。ただ、自分はプロの世界では補欠だったので、その辺りで野球に対する考え方を教えることはあります。僕のような選手は失敗すれば二軍落ちだった。それはトーナメント勝負の高校野球に似ているかなと思います。1球や、ひとつのプレイに対する集中力。その話は彼らにずっとしていますね」

「野球力は人間力」と大越監督は言う。指導者になるにあたり最も影響を受けた人物が、仙台育英時代の恩師である竹田利秋氏(現・国学院大学野球部総監督)である。

「竹田先生は人間を大きく育てるという教えでした。その結果、野球が上手くなりチームが強くなる。野球がうまい選手でも人間力がなければ活躍できないのが高校野球。特にチャンスの場面、2アウト三塁などの場面ではモロに出ますよ。リーグ戦じゃない戦いだから」

 高校野球において監督と選手の間柄でいられる期間は2年半しかない。その限られた時間の中で野球人としての土台をしっかり作って、次の指導者にバトンタッチできるようにしたいというのが、大越監督の考えだ。

 また、2年半という時間は大越監督自身の指導者歴とも同じである。正直、ここまで早かったというのが本音だ。

「今回の甲子園出場を例えるなら、自分自身も基礎や土台を築いているところに家が建ったようなもの。だけど、いま強い風が吹いたらすぐに倒れてしまう。もっと下の部分を強化しないと。何と表現すればいいのか......、とりあえず自分自身が調子に乗らないこと。もちろんそれは、選手たちにも伝えていきたい」

 チームにはプロが注目するような飛び抜けた選手がいるわけではない。しかし、大越監督に育てられた選手たちの眼差しや表情、そしてひとつひとつのプレイは「高校野球の魅力」を我々に教えてくれるだろう。

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