買収から10年。アメリカの富豪がマンUで行なったこと

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper  森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】グレイザー家とマンチェスター・ユナイテッド(前編)

 数年前、アジア人の富豪が、元イスラエル首相のエフード・オルメルトにある仕事を依頼した。マンチェスター・ユナイテッドの買収に手を貸してほしいという話だった。ユナイテッドを買いたい人は大勢いたが、そもそもオーナーであるアメリカ人のグレイザー家に会うことがむずかしい。グレイザー家はあまり表に出てこない。

 けれどもグレイザー家は、中東でのイスラエルの立場を強く支持している。だから元首相のオルメルトならグレイザー家の人々に会えるだろうと、アジア人の富豪は考えた。

アレックス・ファーガソン元監督(左端)と談笑するグレイザー家の面々(Getty Images)アレックス・ファーガソン元監督(左端)と談笑するグレイザー家の面々(Getty Images) 富豪の読みは当たり、会談の場が設けられた。場所はフロリダ州パームビーチにあるグレイザー家所有のカントリークラブ。そこでオルメルト(ユナイテッドのチャーター機の事故で選手たちが犠牲になった1958年の「ミュンヘンの悲劇」以来、ユナイテッドのファンだ)は、アジア人富豪が用意した10億ポンド(現在のレートで約1850億円)の小切手を彼らに渡した(この一件を僕に話してくれたオルメルトは、このアジア人の素性を「東洋人の投資家」としか明かさない)。

 しかしグレイザー家は、小切手を欲しがらなかった。彼らにはユナイテッドを売るつもりなどなかった。ユナイテッドは「スポーツ界で最強のブランドだ」と、グレイザー家の人間は言った。しかも彼らは、ユナイテッドがもっと価値のある存在になると思っていた。

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