【水泳(視覚障害)】秋山里奈「3度目のパラリンピック」で金メダルを (2ページ目)

  • 星野恭子●文 text by Hoshino Kyoko
  • 越智貴雄●写真 photo by Ochi Takao

 遠藤コーチは、後半失速し、抜かれがちな秋山のフォームを「省エネ型」に改良することを求めた。がむしゃらに腕を回すのでなく、手首で確実に水をつかんでしっかりかき切り、1ストロークで進む距離を伸ばすフォームだ。長年しみついたフォームを矯正し、新しい動きを身体に覚え込ませるのは容易ではない。来る日も来る日も、地道な練習を必死に繰り返した。

「できることは、すべてやった」という2年の月日を経て、臨んだオランダでの世界選手権。秋山は見事、1分20秒26の自己ベストをマーク、世界記録も更新した。しかし、秋山が手にしたメダルの色は、『銀』。またしても、ラスト5mで抜きさられていたのだ。

「なんで銀なの? 失速しない泳ぎを身に付けたはずなのに。世界記録だって出したのに......」

 放心状態のまま帰国した秋山は、水泳はおろか、何も手につかない。完全燃焼とも不完全燃焼ともいえない中途半端な思いを秋山は受け止めきれずにいた。ほぼ自室に閉じこもりの状態で1カ月が過ぎた頃、ロンドンの実施種目が発表され、100m背泳が復活することが分かった。

 そのとき、秋山の思いはさらに揺れた。「あれだけ練習した世界選手権でも負けたのに、これ以上どう練習すればいいの。ロンドンに出たってきっと負ける。でも、復活したのに戦わないのは逃げたことになるのかな......」

 そんな秋山に遠藤コーチが声をかけた。「お前の背泳ぎはまだ改善できるところがある。もう一度、お前をチャンピオンにしてやりたい」。固い信頼関係で結ばれたコーチの言葉は、秋山の迷いを一瞬でかき消した。

 この一年、「ロンドンにピークを合わせる」ことだけを目指し、「その日できること」を積み上げてきた。嬉しい誤算は今年7月、調整レースだった国内大会で1分18秒59をマークし世界新記録を樹立したこと。だが、それまでの世界記録を1秒19、自己ベストは1秒27縮める大記録にも、「泳ぎ込みの途中でこの記録が出たのは上出来」と浮かれすぎることはない。

「ロンドンで金メダル」――"3度目の正直"に挑む秋山の、渾身の泳ぎに期待したい。

【プロフィール】
秋山里奈(あきやま りな)
1987年11月26日、神奈川県生まれ。163㎝ 47㎏。
2004年アテネパラリンピック初出場。100m背泳ぎで銀メダルを獲得。2008年北京パラリンピックでは50m自由形に出場し8位。2010年世界選手権(オランダ)100m背泳ぎで2位になると、2012年ジャパラ(大阪) では100m背泳ぎ1位(世界新1分18秒59)を樹立した。

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