2012.08.21

【水泳】秘話。北島康介がいるからこそ進化した「男子平泳ぎ」

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Yusuke Nakanishi/AFLO SPORT

金メダルが獲れなくても、相変わらず北島康介は 水泳界にとって大きい存在である 準決勝も含めれば世界記録が8個も飛び出し、もう高速水着騒動も無かったことのような活況を呈したロンドン五輪の競泳。その中でもめざましい進化をみせたのが、男子平泳ぎだった。

 最初の種目の100m。準決勝で北島康介が持つ五輪記録を、0秒08更新する58秒83で泳いでいたキャメロン・ファンデルバーグ(南アフリカ)は、決勝になると驚愕の泳ぎを披露した。前半の50mを27秒07のハイペースで突っ込んだのだ。そして後半の50mも、日本チームの平井伯昌ヘッドコーチが「キャメロンは一昨年くらいに試合で会ったとき、後半を31秒50で帰れるようにしたいと言っていた。だから彼にとっては2年計画だった」と話す通り31秒39でカバーし、ブレントン・リカード(オーストラリア)が高速水着で出した世界記録を0秒12更新する58秒46で優勝した。

 ただ、前半のハイペースの入りも、彼からすれば何ら冒険でもなかっただろう。昨年の世界選手権では、それまで50mのベストが27秒50台にすぎなかったアレキサンダー・ダーレオーエン(ノルウェー・故人)が27秒20で入り、58秒71で泳ぎきったことで、速い入りは常識になっていた。高速水着での記録ながら50mで26秒67の世界記録を保持している彼なら、当然出せるタイムだった。

「ダーレオーエンにも生前『上海の世界選手権の泳ぎはどうだった?』と聞かれ、『前半をもう少しコントロールして27秒50くらいで入れば58秒50は切れていただろう』と言うと、本人も『自分もそう思う』と言ってたんです。だから彼もキャメロンも、世界記録を出さなければロンドン五輪では勝てないという意識を持っていた」と平井は言う。

 それは200mのダニエル・ジュルタ(ハンガリー)も同じだった。これまで1分00秒50台だった100mのベストを、昨年の世界選手権では1分00秒25に上げ、この大会では200mも2分08秒41で制した。ロンドン五輪の100mでは59秒53で北島より上の4位になる進化を遂げて、200mへ万全な準備をしていた。そして、200m決勝では100mを前年の世界選手権より0秒42速い1分01秒56で通過すると150m手前から抜け出し、思惑通りに2分07秒28の世界記録で優勝したのだ。