【箱根駅伝2026】予選会をぎりぎりの10位通過も、立教大の髙林祐介監督が「逆によかった」と語る真意 (3ページ目)
【夏合宿でシード権の基準を共有】
――話を今季のチームに戻しますが、トラックシーズン後に迎えた夏合宿は、うまく切り替えて進められたのでしょうか。
「全体での一次合宿を終えたあとにミーティングをしました。箱根のシード権獲得を"現実の目標"としてとらえるために、まずは基準を整理して共有する必要があると感じていたからです。チームとして練習はある程度できていました。ただ、このままで本当に届くのか、という問いは持っておくべきだと思ったんです。
そこで練習メニューや練習の消化率、食事や睡眠など生活面を含めて、上位校の水準と照らし合わせながら、シード権に必要な要素をできるだけ具体的に書き出しました。選手たちはシード権を強く意識しているので、だからこそ、それを言葉だけではなく"行動基準"に変えていくことを、夏の段階で丁寧にやりたかったんです」
――反応はいかがでしたか。
「手応えはありました。そのうえで私があれをやれ、これをやれと上から押しつけることはしません。やらされるのではなく、自分たちで考え、納得して積み上げていくことが立教大のスタイルですから。
例えば、箱根の上位チームが月間1000km走っているのに、それよりも少ない距離のままでは同じ土俵で戦うのは難しい。じゃあ、毎日、5km、10kmと増やすのか、それとも週末にドカンと距離を走るのか。方法をひとつに決めるのではなく、選手たち自身が自分たちの現実と向き合いながら、最適解を探していくプロセスが大事だと思っています」
――その夏合宿を経て、選手の意識、姿勢に変化は生まれましたか。
「少なくとも、シード権を目指すうえでの道筋は整理できたと感じています。ただ、その基準を"チームの習慣"として当たり前にするには、もう一段階の積み上げが必要でした。夏合宿は"方向性をそろえて、足りない部分を自分たちで埋めにいくスタート地点"だったと思います」
――迎えた箱根の予選会は、エースである馬場賢人選手(4年)の欠場が大きく響いたとはいえ、前回のトップ通過から一転、ぎりぎりの10位通過でした。
「順位発表時の選手たちの(泣いて喜んでいた)リアクションがすべてを物語っていると思います。2023年に55年ぶりに箱根本戦に出て、そこから連続して出場できていたけど、当たり前だと思っていたものが当たり前じゃなかった。その場での挨拶で、キャプテンの國安(広人・4年)が『(このままでは)シード権は厳しい』という話をしていましたが、これは非常に大きかった。シード権までの距離を、ようやく具体的にイメージできるようになったんです。10番目の通過だからこそ、そこで課題と危機感をチーム全体で共有できたことが、次の成長の起点になると感じています」
後編を読む>>>本選で巻き返しを期す立教大・髙林祐介監督「エースの馬場は、最後の箱根をしっかり走ってくれると思います
■Profile
髙林祐介/たかばやしゆうすけ
1987年7月19日生まれ。三重県立上野工業(現・伊賀白鳳)高校ではインターハイで3年連続入賞。駒澤大では学生三大駅伝で区間賞を7度獲得。卒業後はトヨタ自動車に入社し、2011年の全日本実業団対抗駅伝で3区の区間記録を更新。2016年の現役引退後は社業に専念するも、2022年から母校・駒大のコーチとして指導を開始。2024年4月に立教大の男子駅伝監督に就任。
著者プロフィール
佐藤俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)、「箱根5区」(徳間書店)など著書多数。近著に「箱根2区」(徳間書店)。
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